CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-10-20
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホールのM&A(6)  
 

「パチンコホールのM&A」と題した連載も今回が最終回となります。パチンコホールのM&Aで主流となる会社分割と債権者保護(会社法)、分割申請(風営法)について触れてきました。

これまでの記事


今回は、その他の手続である労働契約承継法と独占禁止法から、最終的なクロージングまで触れて参ります。

M&Aにおける従業員への対応


会社分割は、分割契約書の定めに従い、資産債務や権利義務を包括的に承継します。また、分割会社(売主)とその従業員の雇用契約は、分割契約書にて承継又は非承継を規定する事が出来ます。

但し、従業員に与える影響が大きいため、会社法の特例として、労働契約承継法にて会社分割時の労働者保護が規定されています。

  • 7条措置:分割会社(売主)は会社分割にあたり従業員の理解と協力を得るものとする
  • 5条協議:分割会社(売主)は会社分割の十分な説明をおこなうものとする。
  • 2条通知:分割会社(売主)は労働契約の承継・非承継を書面で通知するものとする。


労働契約承継法の手続は、最終契約締結後に売主が行う必要がありますが、従業員はこの時初めてM&Aを知る事となります。また、その際に様々な反応が出る事が予想されますが、一般的な進め方として、先ずは、役職者幹部を一同に集め、経営方針発表などと題した幹部会議を実施し、そこでM&Aを伝えます。

次に、役職者未満の社員、最後にパート・アルバイトと階層別に説明会を実施します。
説明会においては、M&Aに至った理由とM&A後の処遇などに触れますが、雇用契約が非承継の場合は最も注意が必要となります。他の既存店に異動出来る場合はさほど反発は出ないと思われますが、他方、既存店もなく雇用契約が承継されない場合は失業する不安が発生します。

そのため、買主とは、転籍希望者に対して面接の機会を与えてもらう様、最終契約で合意する必要があります。また、買主は転籍時の退職において退職金が発生する場合は、売主で支払う事を最終契約で合意する必要があります。

以上の5条協議が終了した後、2条通知を実施します。2条通知とは、会社分割により影響を受ける従業員全てに会社分割の概要を記載した書面を郵送します。なお、書面には絶対的記載事項があり、これらを失念すると無効となる可能性がありますので、会社分割に慣れた専門家に書面作成を任せるのが良いと思います。


意外な盲点?!独占禁止法


労働契約承継法の他にM&Aで注意しなければならないのが、独占禁止法への対応です。独占禁止法と聞かれて、「パチンコホールには関係の話だろう」と思われる方が多いと思いますが、独占禁止法第4章にて、合併などの企業結合によって企業間競争に影響を及ぼす事を規制する事が定められおり、企業結合(M&A)の内容により、独占禁止法の審査が必要となります。

更に、企業結合の審査において、買収先の国内売上高が200億を超える場合は届出要件に該当します。お分かりの通り、パチンコホールのM&Aにおいて売上高200億円のM&Aはあり得る規模であり、その場合には公正取引委員会への届出審査が必要となります。なお、売上高200億円に該当したらNGではなく、その他項目を含めた総合審査となります。

クロージング


公安委員会の分割承認を経て、会社分割の商業登記申請をすれば、会社分割が成立します(クロージング)。また。登記申請日以降の損益は買主に帰属しますので、損益の基準日の関係から1日付の分割日が多い理由となります。

クロージング後にリニューアルする店舗もあれば、しばらくは屋号も変えずに営業を続ける店舗もあります。M&Aの特長の1つとして、M&A後しばらくの間は現状のまま営業を続け、顧客や競合店の動向を把握した後に、時期を見てリニューアルを仕掛ける事が出来ます。今後、益々増加するであろうパチンコホールのM&Aに注目して頂けたら幸いです(了)

船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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