CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-07-20
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホールのM&A(3)


あらためて「基本合意」とは


パチンコホールのM&Aについて、前回は、初期検討から基本合意まで触れました。

特に、基本合意と、法的義務が生じる“契約との相違”について、基本合意の段階では買主が把握することができる情報が限定的であることや、基本合意後の買収精査(DD:デユーディリジェンス)であらたな事象が発覚した場合の変更を含め、「基本合意は法的拘束力を持たない」とすることが一般的な解釈となります。

但し、秘密保持と、独占交渉権が付与された場合の独占交渉権の2点は法的拘束力を持ちますので、その点は注意が必要です。

パチンコホールM&Aにおける基本合意とその他契約との関係


近年のパチンコホールのM&Aでは、株式や事業の全てを取得するのではなく、個店単位の不動産や動産を取得するケースが圧倒的に多いのが実態です。また、営業許可と遊技機使用の地位を承継するため“形式的”にM&A(会社分割)を選択するケースが多く、従業員の雇用契約や貯玉を除く債務を承継しないケースが数多く見られています。

M&Aの検討手順としては、基本合意前は不動産と設備の確認が中心、基本合意後の買収精査(DD)は営業、雇用、継続取引契約の確認が中心となりますが、雇用契約を引き継がない場合などでは、基本合意前の検討と交渉の結果、買収精査(DD)を経ずに契約に近い合意が示される事が多く見られます。

この場合、基本合意書の重要度が増す事になりますが、後に禍根を残す様な“ちゃぶ台返し”にならないためにも、ザックリではなく、しっかりとした内容で基本合意を結ぶスタンスが必要と思います。

以上のとおりのパチンコホールM&Aの実態を踏まえ、基本合意とその他契約との関係を整理すると次のとおりとなります(吸収分割の場合)。

  • 基本合意書
    対象事業、分割計画、対価、雇用契約、解約等の合意事項全般を記載。
  • 最終契約書(又は覚書)
    基本合意書の合意事項に加え、DDによる変更やクロージング条件、支払方法などの詳細を規定。
  • 吸収分割契約書
    会社法の規定事項(効力発生日や資本金の増減など)を記載。法務局提出書面。
  • 不動産契約書
    土地建物の売買や賃貸借に関する契約内容を記載。

また、遊技機と設備については、取引内容や税務等を考慮し、分割対価には含まず売買契約として別途締結する場合があります(遊技機売買契約・動産売買契約)。

如何でしょうか? 

契約書類が目白押しで「初めてのM&A」で難儀する点の1つと言えます。なお、弁護士に相談した場合にも、全ての弁護士がパチンコホールのM&Aや会社分割に詳しい事はなく、また、白紙の状態から弁護士に契約書類の作成を依頼した場合には100万円以上の報酬は十分覚悟する必要があるなど、実務での壁となります。

パチンコホールのM&Aや会社分割等に詳しいアドバイザーにピンポイントで依頼するなどの工夫が必要となります。

事業譲渡と会社分割の違い


パチンコホールのM&Aでは、対象事業に係わる営業許可と、遊技機の検定及び認定の地位を会社分割で承継する必要がありますが、似た形態として事業譲渡が挙げられます。

“組織再編の会社分割”に対して“取引行為の事業譲渡”と比較されますが、組織再編とは、会社の組織や形態の変更をおこない、再編しなおすことです。具体的には特定の事業について一部又は全部を他社へ承継することで、合併、株式交換、株式移転、会社分割の4つを差します。

移転の際の対価は株式を交付する場合と金銭を交付する場合がありますが、パチンコホールのM&Aでは金銭の交付がほとんどとなります。他方、事業譲渡は、特定された物品等を譲渡する取引であり、売買の一種となります。よって、事業譲渡は消費税取引、会社分割は不課税が原則となります。

先程の遊技機や動産を吸収分割の対価に含まず売買契約とするケースに触れましたが、この場合の遊技機や動産の譲渡は課税取引となる点に注意が必要です。ただし、この際に支払われる消費税(支払消費税)は最終的には預かり消費税と相殺されます(相殺後の残額が未払消費税)。

会社分割の場合は不課税となりますので消費税は発生しませんが、支払消費税が減った分未払消費税は増えることになるため、結果的には同じと言えます。ただし、支払総額は消費税取引(事業譲渡)の方が高くなりますので、会社分割に含めるケースが多いと思われます。

なお、償却の観点からすれば、会社分割の対価を営業権で償却した場合と、事業譲渡で償却した場合では、事業譲渡で償却する方が償却期間は短く所得後の法人税でメリットを得ることになります。遊技機や設備を分割対価に含めるか、含めないか、顧問税理士等の見解も踏まえたご判断が必要と言えます。

今回は専門的な内容が多くなりましたが、基本合意とその他契約の関係はパチンコホールM&Aをご検討される際の壁と言えますので、ご参考になれば幸いです。
次回は、もう一つの壁となる「分割手続」について触れてみたいと思います。どうぞ、引き続き、宜しくお願い致します(了)。


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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com/
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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