CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-09-15
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホールのM&A(5)


会社分割の手続


パチンコホールのM&Aについて、前回は、M&Aの多くで採用される「会社分割(吸収分割)」の留意点について触れました。

パチンコホールのM&A(4)

会社分割とは パチンコホールのM&Aについて、前回は、基本合意とその他契約との関係、並びに会社分割と事業譲渡の違いについて触れました。会社法における「組織再編」の位置づけとなる会社分割と、「取引行為」となる事業譲渡について、金銭を対価とした場合のその違いについて...

特定(個別)承継の事業譲渡と異なり、包括承継の会社分割は、営業許可や遊技機の認定検定の地位に加え、雇用、契約、資産、債務がなどを包括的に承継する組織再編行為(承継対象を決めることは可能)である点に触れましたが、包括承継の対象に応じて、必要な手続があります。主な手続は以下のとおりです。

  1. 1.分割申請
  2. 2.債権者保護手続
  3. 3.労働者保護手続
  4. 4.分割登記

やや専門的となりますが、各項の概要について触れさせて頂きます(紙面の関係上、次回を含めて2回とさせて頂きます)。

分割申請(主に行政書士)


営業許可の地位を承継するにあたり、会社分割(M&A)の対象店舗が属する都道府県公安委員会へ、会社分割に関する分割申請書の提出が必要となります(窓口は所轄警察署)。

申請では、会社分割の内容と、営業許可を承継する法人(買主)の事前審査が目的となります。具体的には、吸収分割契約書(新設分割の場合は新設分割計画書)の写しと、買主役員全員の誓約書と戸籍謄本の提出などが必要となります。

受付窓口は所轄警察署となりますが、会社分割に不慣れな警察官も多く、また所轄により手続にかかる日数が多少異なることから、実務経験豊富な行政書士に依頼するケースが多いと思います。

また、最も重要な点として、会社分割の商業登記(後述)の申請前に、都道府県公安委員会の分割承認を受ける必要があります。仮に、分割承認の前に会社分割の登記をおこなうと、営業許可の地位がない権利義務を承継することとなりますので、営業許可の継続使用が不可となります。

よって、商業登記をおこなう司法書士と、分社分割申請をおこなう行政書士の連携は必須と言えるでしょう。なお、個人名義の営業許可の承継は一身専属を理由に本人以外への承継は認められていません。

債権者保護手続(主に司法書士)


会社分割において債務の承継を伴う場合、債権者保護手続が必要となります。なお、債務とは、金融債務や商事債務以外に貯玉が含まれますが、貯玉を承継する場合も債権者保護手続が必要となります。

債権者保護手続とは、会社分割に異議のある債権者を保護するための会社法規定の手続ですが、具体的には、官報にて会社分割を公告することと、債権者に対して個別催告をすることが規定されています。

また、貯玉を承継する場合は個別催告が必要となりますが、1000人をも超す貯玉会員に催告書を発送するのは非現実的となります。よって、代替案として、日刊紙又は電子公告をおこなうことで個別催告を省略することが認められています。

いわゆる「ダブル公告」と呼ばれるものですが、日刊紙等への分割公告を実施する場合には、他方、定款変更が生じることがあります。分割法人(売主)の定款に「官報による公告」と記載がある場合は公告の方法に関する変更が生じますので、ダブル公告を開始する前に定款変更をおこなう必要があります。

ちなみに、債権者保護期間は公告の開始日から1ヶ月間となりますが、官報掲載日があらかじめ決まっていることや掲載原稿の作成期間を考慮すると、着手から債権者保護手続終了まで1.5カ月程は必要となります。よって、既述の分割申請(都道府県公安委員会)と並行して進めることとなります(手順としては、分割申請→債権者保護手続→分割承認→分割登記となります)。

なお、債務を一切承継しない場合の債権者保護手続は不要です(債権者は分割対価を受領する分割会社に対して請求することが可能なため)。また、仮に異議申立があった場合に全額弁済すれば問題はありませんので、債権者が少数などの場合に日数を要する債権者保護手続をおこなわない場合もあります。

有限会社の注意点


過去に設立が認められていた有限会社ですが、2006年の会社法施行により、有限会社の新設はできなくなりました。また、それ以前に有限会社であった会社は特例有限会社として法律の規定を受けることとなりました(詳細は割愛)。

M&Aにおいて有限会社のケースは比較的多く見られますが、注意点として、有限会社が承継会社となることはできません。他方、有限会社が分割会社の場合は可能となります。異なる種類の法人間の組織再編には注意が必要となります。

紙面の関係上、2回に分けることとなりましたが、次回は後半の手続に触れたいと思います。どうぞ、引き続き、宜しくお願い致します(了)。


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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com

このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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