CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-05-18
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
ホール企業のM&A異業種参入


ホール企業のM&A異業種参入


ホール企業様において、異業種参入についてご検討の企業様が増えつつあります。背景として、本業のホール事業を取り巻く環境変化やベテラン従業員の活躍の場の提供、多角化経営によるリクルーティング強化など、さまざまです。

私見ながら、ホール事業について悲観も楽観もありませんが、当社に寄せられるM&A売却案件における売主様希望額を見ると株式価格で1億円未満の割合も多く、ホール1店舗の開発・買収費用や毎月1000万円以上の入替費用などと比較すると“安い”と感じられるのではないでしょうか。他方、ホール事業における投資額の大きさは他業種と比較すると“ケタ一つ”違う印象で、その点においては特異な業種とも言えます。

さて、ホール企業様の異業種参入について、社内起業のケースと他社買収のケースが考えられます。前者の社内起業の場合、社内人材を中心に新規プロジェクトを立ち上げ事業化を目指すもので、文字通り“ゼロイチ”で立ち上げる場合から、FC加盟などのパッケージを導入するケースまでさまざまです。

また、後者の他社買収はいわゆるM&Aのことで、他社人材を活用しながら業績アップを目指すものとなります。なお、社内起業と他社買収の最大の違いは、社内起業は自社人材が中心になることに対して、他社買収はあくまで他社人材を活用することが前提となります。

現在見られるパチンコホールM&Aは人材を残すよりも資産を買う側面が強い事からピンと来ないかもしれませんが、本来、M&Aとは他社人材を活用するところが大きい点と言えるでしょう。
 

地域と人材のマトリクス


M&Aにおける異業種参入をマトリクスで表すと、買収先における“地域と人材”の2軸に分解することができます。


縦軸に土地勘、横軸に人材で分解すると、4つの象限(AからD)に分けることができます。結論から言えば、いずれの象限に優劣はありませんが、Aから順に難易度が上がると言えます。各象限について触れてみましょう。

【A:土地勘のある会社で、自社人材を中心とする業種】


この領域が最も成功確率の高い異業種買収と言えます。馴染みのある地域である点と自社人材を中心にまわすことができる点から、買収後のイメージが掴みやすい特長があります。

【B:土地勘のない会社で、自社人材を中心とする業種】


次のCと悩むところですが、自社人材を中心とすることができる点で多少の安心感を持つことができるかもしれません。

但し、土地勘のない場所での商売は想像以上に難しい点に注意が必要です。

【C:土地勘のある会社で、買収先の人材を中心とする業種】


買収先の人材を中心にしながらも、足りない部分を自社人材で補うイメージとなります。例えば、老舗で高品質の商品を提供する酒蔵だが、ネット販売やSNSなどの販促ノウハウがゼロで年々売上が減少している会社などのケースが挙げられます。

ホール企業様の人材の一つの特長として“販促の上手さ”を挙げることができますが、お互いの長所を生かしながら買収先の企業価値を高めることができれば、双方満足のM&Aとなります。また、土地勘のある会社の場合、買収後の戦略を立てやすい点にメリットがあります。

【D:土地勘のない会社で、買収先の人材を中心とする業種】


こちらは、いわば投資に近い領域となります。経営事業は相手に任せて、株主として資本参加するイメージとなります。ハイリスクハイリターンとなりますが、IPO(株式公開)を目指すような成長性の高い会社の場合は面白いかもしれません。



以上のとおり、M&A異業種買収における“土地勘”と“人材”の2軸による検討は重要な視点となりますが、そもそも前提として、黒字事業であることが重要となります。

今般、コロナ禍の影響で赤字事業のM&A案件が急増していますが、「株価は無価値で良いので会社を引き取って欲しい」といったケースもあります(但し、債務の引継ぎやオーナー借入金の返済、役員退職慰労金の支払い等が発生)。

また、買収後に直ちに運転資金の注入が必要なケースもあり、落ち着くまで一体どの程度の時間を要するか?予測できないケースなどもあります。

近年、地元の取引先金融機関などから異業種の案件が持ち込まれることが多くなったホール企業様も多いかと思われますが、以上の原則と視点を忘れずに、あらたなチャレンジに取り組まれることを祈念いたします。また、お会いしましょう(了)。

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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
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このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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