CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-05-19
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホールのM&A(1)



最近のM&A動向


2015年頃よりパチンコホールをM&Aで譲り受ける事例が増加しましたが、これはパチンコホールに限った話ではなく、全業種において中小企業のM&Aが加速しています。

特に最近のM&Aが多い業種として、建設業、不動産業、飲食業、宿泊業、介護施設、クリニック、製造業などが挙げられますが、M&Aに至った理由を見ると、宿泊業や飲食店などのコロナ禍を理由とする業種以外に、後継者不足の業種と言える建設業や製造業、クリニックなどを挙げることができます。中小企業の後継者不足がいかに大きな問題であるかに気付くこととなります。

また、最近のM&Aの動向として、後継者不足の会社を起業家志向のある若手経営者が引継ぎ、V字回復させる事例が見られています。例えば、地酒や特産物の製造と販売を扱う会社に対し、若手経営者が商品パッケージやネーミングを見直し、SNSやインターネットによる拡販に成功しV字回復を実現するなど、各世代の持つ特長と本来の能力をお互いに活用しながら、さながら共同経営のスタイルで取り組む姿勢を見ると、従来の“買収”いうネガティブな印象を変えるところがあります。

廃業の結果、雇用と産業が失われる特に地方において、対象会社に不足している、人、モノ、カネ、ノウハウを提供する“支援型”のM&Aは、買収企業の社員にも起業家精神やモチベーションを高める効果もあり、ホール企業様で異業種参入を検討中の企業様の一つのヒントになるのではと思います。



パチンコホールのM&A動向


さて、パチンコホールのM&Aは他業種とやや傾向は異なりますが、M&Aに至った理由を見ると、やはり、規制業種に伴う市場環境の変化と再投資の負担を挙げることが出来ます。また、新要件機の投資をおこなった後も市場環境がどの程度回復するか見通せないところがあり、現在の市場環境を前提とした上で、今後の賃料負担や現状赤字の店舗を閉店する流れが加速中です。他方、同業他社においても同様の市場環境となることから、売手主導の値付けで売却が実現できる店舗や企業は徐々に少なくなっている印象があります。

手前味噌ですが、2015年前後より本格化したパチンコホールのM&Aに多く関与させて頂いた私ですが、今振り返ると、売主主導のM&Aが成立した時期は2018年頃がピークだった印象を持ちます。現在は、パチンコホール以外の候補先として、コロナ禍でも好調なドラッグストアや中古車ディーラーなど異業種も売却や賃貸の候補となりますが、当然ながら島や設備が不要となることから、いわゆる“のれん(営業権)”の評価を得る事はなく、不動産についても時価が合理的評価と言わざるを得ない状況となります。

結論として、売主主導で同業他社への売却が実現できる物件は、立地、規模、競合などに恵まれ、且つ設備の状態も良いといった“商品性”の高い物件が中心となっています。こちらに該当する店舗は、固定資産の償却残や賃貸の場合の賃料負担は高めとなりますが、他方、営業におけるポテンシャルも見込める場合は依然として売主優位の最有力の店舗となります。“売れる店を持っている”こと自体がその会社の強さとも言えるのですが、このあたりの評価基準はこれからも変わらないのではないかと思われます。


“かつて良かった店”の今後


パチンコホールには“かつて良かった店”というものが存在しますが、M&Aをするも、営業継続の場合も難易度が最も高い店舗となります。こちらに該当する店舗で比較的多く見られる傾向として

  1. ① 賃料が高い(過去良かった時代の賃料設定となる)
  2. ② 規模が中途半端(一番店が超大型化する以前の基準で作られている)
  3. ③ 現状赤字

が挙げれますが、他方、オーナー様にとって“かつて良かったお店”の印象が強く残っていることから、“機械や時代が変われば復活するのではないか?”といった淡い気持ちもあり、結果的にずるずると続けてしまう傾向があります。その結果、他店へのしわ寄せや、効果の見込めない中途半端な投資が続き、キャッシュフローでも赤字に陥る店舗が多く存在します。さらに、今後の入替負担を考えると、最も悩ましい店舗と言えるでしょう。

既述の通り、2018年頃のM&Aのピークまでは売主優位の売却の可能性はありましたが、現在は売主主導の売却に過度な期待を持つことはできません。他方、現状において先ずは黒字の状態であることが重要となります。同業者であれば、“かつて良かった店が何故ダメになったのか?”の理由を理解することができますが、その理由を伝えて理解させた上で、“今は最低の状態だが、黒字ではある”と認識されることが必要です。

売却テクニックの話となりますが、よほどの理由がない限り“赤字の店舗を買う企業はない”ことを認識した上で、売主買主ともに信頼されるアドバイザーにお願いすることが望ましいと思います。開店から現在までの経緯をしっかりと伝え、透明性の高い対応を続ければ、不思議と興味をもってくださる会社が現れるものです。やや精神論となりましたが、“M&Aはお互いの信頼なしでは成立しない”ことをお伝えしたいと思います。


次回は、パチンコホールのM&Aに関する実践編をお届けさせていただきます。どうぞ、引き続き、宜しくお願い致します(了)。


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船井総研 金融・M&A支援部
<お問合せ先>  thirano@funaisoken.co.jp
<HP>   https://funai-ma.com/
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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