CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-07-28
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
扶養について


皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。

関東地方では最高気温が30度を超える日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。まだまだ暑くなると思われますのでくれぐれもご自愛下さい。

さて、この時期は、労務関係のイベントとして労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届の両手続きが終わってひと段落している頃ではありますが、一方で年末調整に向けて動き出すタイミングでもあります。今回はその年末調整にちなんで「扶養」についてお話をさせていただきます。

扶養に関する質問は多い


扶養に関しては高頻度でお客様からご質問を受けることが多いテーマの一つです。その背景としては、「税法上の扶養」と「社会保険の扶養」を混同している、両者の違いを認識できていないことが考えられます。

実際、お客様から質問や問合せを受けた際には「税法上の扶養」、「社会保険の扶養」のどちらのことを聞かれているのかしばらく判断できないことも少なくありません。ちなみに、このような場合、「健康保険証」というフレーズを投げかけてその応答ぶりを確認することによって、概ねどちらの扶養のことを聞かれているのか判断できたりします。

そのまま話がスムーズに進めば「社会保険の扶養」のことを、反対に話が進まなければ「税法上の扶養」のことを聞かれているといった具合です。

税法上の扶養とは


■所得税と住民税が軽減


「税法上の扶養」では所得税や住民税の課税について軽減を受けることができます。軽減といってもダイレクトに税金が少なくなるわけではなく、所得税や住民税を算出するためのベース(所得)から一定額を控除することができる仕組みで、つまり、そのベースが減ることによって結果的に算出される税金が安くなるといったものです。

では、誰が軽減の恩恵を受けることができるのでしょうか。ご存知かと思いますが、法律や制度上の言葉を使わずに分かりやすく言うと、家族内で一番収入がある人(収入が少ない家族の面倒をみている人)が恩恵を受けるような形となります。

例えば、「夫(年収700万円)、妻(年収100万円)、子(学生)の3人家族」であった場合、妻と子が夫の扶養に入ることによって夫が所得税、住民税の軽減を受けることができます。

■配偶者控除と配偶者特別控除


上記で「妻と子が夫の扶養に入る」といった表現を使いましたが、「税法上の扶養」に関しては制度上、「配偶者」と「配偶者以外の親族」とで取扱いが異なっています(趣旨は同じ)。

通常、「扶養控除」といえば配偶者以外の親族分の控除のことを指します。一方、配偶者分についてはそれとは別に「配偶者控除」又は「配偶者特別控除」を適用します。

ちなみに、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の違いですが、「配偶者控除」の仕組みを配偶者の年収(所得)に応じて段階的に縮小して適用しているのが「配偶者特別控除」になります。

■扶養控除


前述のとおり、配偶者以外の親族分の控除のことを「扶養控除」と言います。「扶養控除」については「控除対象扶養親族」、「特定扶養親族」、「老人扶養親族」の区分に分かれており、区分ごとに控除額が決められています。

なお、「配偶者控除」と「配偶者特別控除」については、恩恵を受けることができる者(前述の例では「夫」に該当)の年収(所得)も適用要件となっているため、配偶者が要件を満たしていても「配偶者控除」又は「配偶者特別控除」の適用を受けることができない場合がありますが、「扶養控除」に関してはその要件はありません。

社会保険の扶養とは


■社会保険の扶養とは


「社会保険の扶養」とはイメージしやすく言うと、(健康)保険料を支払うことなく健康保険証を持つことができる状態のことです。「社会保険の扶養」に該当していることを被扶養者と言いますが、主な要件として、「被保険者(社会保険に加入している人)によって養われている親族」、「年間見込収入が130万円未満」などがあります。

■配偶者は国民年金の第3号被保険者に


配偶者が被扶養者になった場合、要件に該当するときは自動的に国民年金の第3号被保険者となり、自身で国民年金を納めることなく国民年金に加入することができます。

もちろん、将来の自身の年金額にも反映されます。この部分の保険料については被保険者(被扶養者の配偶者)が別途納付する必要もないためかなりのメリットになっていると思われますが、一方で、被扶養者でいることに固執してしまう一つの要因になっているとも考えられます。

103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁、150万円の壁


「税法上の扶養」、「社会保険の扶養」ともに、扶養に該当するための年収要件がありまして、その年収額を「●円の壁」と呼ぶことが一般的で、年収要件から外れないようその壁を意識している人は多くいらっしゃいます。以下、「103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁、150万円の壁」についてご説明します

■103万円の壁、150万円の壁


この2つは「税法上の扶養」の要件を指しています。

・103万円の壁


「扶養控除」の対象になるか否かの壁。毎年、年末調整を控えた秋頃にお客様から「アルバイトの学生が、年収103万円を超えないように親から言われたらしく現時点の年収を確認したい」というようなご相談を受けることがありますが、まさにこれは103万円の壁に該当します。

なお、「扶養控除」ではないものの年収が103万円を超えると自身で所得税を納付する必要もあることから、その点においても103万円の壁を使うこともあります。

・150万円の壁


上記において「『配偶者控除』の仕組みを配偶者の年収(所得)に応じて段階的に縮小して適用しているのが『配偶者特別控除』」と説明しましたが、配偶者の年収が150万円以下であれば「配偶者控除」の控除額と同額が適用される仕組みとなっています。

具体的には、年収103万円以内の場合は「配偶者控除」を適用、年収103万円超から150万円以下の場合は「配偶者特別控除」を適用するといった形です。従って、適用される制度は異なりますが、結果として年収150万円以下の場合は同額の控除を受けることができることから、そのボーダーとして150万円の壁が意識されています。

■106万円の壁、130万円の壁


この2つは「社会保険の扶養」の要件を指しています。

・106万円の壁


特定の要件に該当する会社に、特定の要件に該当する労働条件で勤務していた場合、年収が106万円以上(毎月の給与が88,000円以上)のときは自分自身が社会保険に加入する必要があります。そのボーダーとして106万円の壁が使われています。

なお、特定の要件に該当する会社とは、「従業員数501人以上」の会社を指しますが、これが来年2022年10月から「従業員数101人以上」に、2024年10月から「従業員数51人以上」に変更されますので、今後、より多くの方々が自身で社会保険に加入することになると考えられます。

・130万円の壁


被扶養者の年収要件を意味しており、これをオーバーする見込みがある場合で、社会保険の加入要件を満たしていないときは、自身で国民健康保険及び国民年金に加入しなければなりません。130万円は「配偶者特別控除」の控除を享受できる範囲内でもあるため、比較的多くの方々が意識されている壁と推測されます。

今回は扶養についてご説明させていただきました。
今年も年末調整が近づくにつれて「扶養の範囲内に収めたい」などのようなご質問、ご相談が増えてくると思います。その際は、是非こちらのコラムをご一読下さい。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。