CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2025-09-24
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
スポットワークの休業手当



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。

今回はスポットワークの休業手当に関するコラムになります。

スポットワークとは


スポットワークとは、短時間・単発で働ける新しい働き方の一つで、副業や隙間時間の活用に有用と言われていることから、スキマバイトと形容されることもあります。特定のスキルや長期契約を必要とせず、スマホ一つで仕事を探し、即日勤務・即日報酬が可能なことが魅力として挙げられますが、一方で、労働契約が曖昧になりやすく、労働者保護が十分でないといった側面も有しています。

スポットワークにおける休業手当の問題


休業手当は、労働基準法第26条に基づき、使用者の責に帰すべき事由によって労働者が働けなくなった場合に支払われる手当のことを言います。例えば、会社の都合でシフトが急にキャンセルになった場合、会社は労働者に対して、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。平均賃金とは、ざっくり1日当たりの給与のことですが、仮に平均賃金が10,000円の労働者を会社都合で休業させた場合は、1日毎の休業に対して6,000円以上の休業手当を支払うことになります。

これまでスポットワーク業界においては、「スポットワーカーが勤務当日に現場でQRコード等を読み込んだ時点で労働契約が成立する」と認識されていました。勤務当日にQRコード等を読み込んでいない限り(労働契約が成立していない限り)、会社はスポットワーカーに休業手当を支払う必要はないという考え方が常識になっていたため、会社都合による当日のキャンセルや業務中止に対して休業手当が支払われることはありませんでした。「労働契約が成立していないので休業手当の支払いは不要」という考え方は至極合理的と言えますが、会社都合による直前のキャンセルについてはグレーと言われてきました。この背景には、スポットワークの労働契約の成立時期が曖昧であったことが挙げられます。

「スポットワークに応募する=労働契約が成立する」という見解


スポットワークは、柔軟で自由な働き方を可能にする一方で、スポットワーカーの立場が弱くなりがちな部分があり、休業手当が支払われていなかったことはその最たる例と言えます。

このような環境を改善すべく、厚生労働省は、スポットワークの労働契約に関しては求人への応募が完了した時点で労働契約が成立する旨の見解を示しました。つまり、スポットワーカーがアプリ上で仕事に応募した時点で、企業とスポットワーカーの間には正式な労働契約関係が成立することが明確になったのです。これにより、会社側が労働契約後に業務を中止する場合には原則、労働基準法第26条に基づく休業手当を支払う必要があります。

休業手当の適用条件


2025年9月以降、会社側が就労開始直前(24時間以内)に業務をキャンセルする場合は、合理的な理由がない限り、休業手当の支払いが必要となります。合理的な理由として認められるのは、下記の①~⑧のようなケースとされています。なお、就労開始の24時間前までに業務をキャンセルする場合は、①~⑧に加えて⑨~⑪のようなケースも合理的な理由に当たるとされています。

  1. 不可抗力その他の事由(地震や台風等の天災事変等)があるとき
  2. 長期療養や逮捕・勾留等のために、就労日に就労できないことが明らかなとき
  3. 就労に必要な資格の証明がないとき、法令上就労させることができないときその他就労において必要となる法令の趣旨に照らして条件を満たさないとき
  4. 契約上の義務違反又は不法行為、犯罪行為等の反社会的行為を行なったとき
  5. 募集条件として明示している勤務態度にかかる条件を満たさないことを使用者が確認したとき
  6. 募集条件として明示している同種業務の経験や使用者における勤務経験にかかる条件等使用者が求める条件を満たさないとき
  7. 募集条件として明示している持ち物に不備があるとき
  8. 募集条件として明示している髪色・長髪・服装などの身だしなみについて、使用者が求める条件を満たさないとき
  9. 天災等の不可抗力によらない営業中止のとき
  10. 大幅な仕事量の変化による募集人数の変更が必要となったとき
  11. 掲載ミス(業務内容、日時の誤り)があったとき


上記に該当しない会社都合のキャンセルについては休業手当の支払いが必要になります。先述のとおり、法律上の支給額は平均賃金の60%以上になりますが、一般社団法人スポットワーク協会が取りまとめたガイドラインでは、「予定給与額満額」とされていますので、これに則ると、その日に支払う予定であった給与の全額(100%)を支払うことになります。


今回はスポットワークの休業手当に関するコラムでした。
働き方の多様化等を背景に、スポットワークは今後も広く浸透していくことが予想されます。利用する企業様におかれましては、法令違反や不適切な運用がないよう十分に留意しましょう。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。