2025-04-23
社会保険労務士 齊藤労務事務所 齊藤 拓也

高額療養費制度とは
人事・労務
皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
新聞やテレビ等でも報道があったとおり、今年の8月より高額療養費制度は段階的に見直しされる予定でしたが、政府からその実施を見送りすることが発表されました。その背景には、高額療養費制度を利用している患者団体等からの強い反発があったとされています。予算の修正を伴う異例の見送りとなりましたが、そもそも高額療養費制度とはどのような制度なのでしょうか。また、予定されていた見直しはどのようなものだったのでしょうか。というわけで、今回は高額療養費制度についてのコラムになります。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、公的医療保険に加入している人が、1か月(同じ月内)に支払った医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合にその超えた分が払い戻される医療制度のことで、すべての国民が安心して医療を受けられるように設けられたセーフティネットのひとつです。
日本の医療保険制度では、病院で診療を受けた場合の自己負担割合は、原則として70歳未満であれば3割です。しかし、がんの治療や手術、長期入院などで医療費がかさむと自己負担もかなりの額になります。このような場合でも、高額療養費制度によって実際の自己負担額がある一定の限度額に抑えられるのです。
限度額
高額療養費制度による自己負担限度額は、次の表のとおり5つの区分ごとに設定されています(70歳未満の場合)。

例えば、標準報酬月額30万円の人がある月に医療費100万円を要した場合、1か月あたりの自己負担限度額は「80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円」となります。医療費100万円時の自己負担額(3割負担)は30万円ですので、事後、「300,000円-87,430円=212,570円」が戻ってきます。
対象となる医療費
高額療養費制度の対象となるのは、入院費や手術費、外来診療などの保険が適用される医療費に限られます。自由診療や差額ベッド代、食事代などは対象外となります。ちなみに、民間の医療保険から保険金や給付金を受け取っていても高額療養費制度は利用できます。
また、個人単位で限度額を超えていなくても、同じ公的医療保険に加入する家族の医療費を合算して限度額を超えていれば高額療養費制度を利用することが可能です。これを世帯合算と言います。この仕組みによって家族全体での負担軽減が図られる形になっています。
長期の治療に有用
高額療養費制度は、長期にわたる治療が必要な病気や、高額な薬剤を使うケースで役立ちます。例えば、がん治療で抗がん剤を毎月投与する場合や、糖尿病で定期的に治療が必要なケースなど、継続的に高額な医療費が発生する時には、毎月限度額までの自己負担で済むようになります。
さらに、直近12か月以内に3回以上、高額療養費の対象になった場合は、4回目以降から多数回該当として限度額がさらに引き下げられます。例えば、先の「標準報酬月額30万円の人がある月に医療費100万円」のケースでは限度額は87,430円でしたが、多数回該当の時は限度額が一律44,400円になります。これは継続治療が必要な患者にとって非常に大きな支えとなる仕組みと言えます。
見直し予定だった限度額の区分
見送りとなった2025年8月の見直しでは、次の表のとおり限度額の引き上げが予定されていました(70歳未満の場合)。

「標準報酬月額30万円の人がある月に医療費100万円」のケースでは、「88,200円+(1,000,000円-294,000円)×1%=95,260円」と、現行比で7,830円の負担増が見込まれていたこととなります。
見送りの背景
見送りとなった背景には、純粋に限度額の引き上げに伴う負担増に対する反発のほか、とりわけ多数回該当を利用できなくなることに対する強い反発があったと考えられます。
区分③の場合、現行制度では医療費が267,000円超あれば高額療養費制度を利用できます。一方、見直し案では、医療費が294,000円超でないと高額療養費制度を利用できません。つまり、これまで高額療養費制度を利用できていた人が利用できなくなる可能性があり、結果、多数回該当を利用できなくなる人が一定数以上いると指摘されていました。
例えば、区分③で毎月27万円の医療費を要しているケースの場合は、多数回該当を利用できなくなることにより、現行比の12か月試算で約33万円程度の負担増の可能性がありました。
なお、見直し案では2025年8月以降も標準報酬月額区分の細分化(13区分への細分化)と限度額の引き上げにより、さらなる見直しが行われることになっていましたので、その点に対する反発もあったと考えられます。
2025年8月からの見直しは見送りになっていますが、今年の秋頃までに制度のあり方を再検討するとされています。皆様にも影響がある制度と思われますのでその動向は注視しましょう。
今回は高額療養費制度についてのコラムでした。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。
このコラムを書いたのは

社会保険労務士 齊藤労務事務所 齊藤 拓也
千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。