CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2024-07-03
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
【2024年10月】社会保険の適用拡大



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。

今年の10月から社会保険の加入対象が拡大されることはご存知でしょうか。
拡大対象のターゲットになっているのはアルバイトやパートで、加入基準を満たしている場合に限りますが、「週20時間以上働いていて、給与額が月10万円程度以上の学生ではないアルバイトやパート」は加入対象になる可能性があります。

会社からの事前説明なく突然10月に社会保険に加入させるようなことがあった場合、会社に対する不信感等から思わぬトラブルに発展する可能性もありますので、社会保険の適用拡大について理解を深めておきましょう。

社会保険加入義務の基本的な考え方


まずは社会保険の加入義務に関する基本的な考え方の整理になります。

■適用事業所


法人や一部の個人事業主は、所定の要件を満たすと社会保険が適用されている事業所として取り扱われることとなっており、それら法人等のことを適用事業所と言います。

所定の要件とは従業員(役員含む)数のことで、法人の場合、1人でも従業員を雇用していれば適用事業所に該当します。役員のみの場合も同様です。

個人事業主の場合は法人と異なり、まず適用事業所に該当するか否かは業種で線引きされていて、その上で、従業員を5人以上雇用していれば適用事業所になります。適用事業所に該当する業種のことを法定17業種と言い、法定17業種に当てはまる建設業や金融業等の個人事業主は、従業員を5人以上雇っていると適用事業所になります。一方で、法定17業種には当てはまらない飲食店業等の個人事業主は、従業員数にかかわらず適用事業所になることはありません(任意に適用事業所になる制度あり)。

なお、所定の要件を満たすと適用事業所として取り扱われると書きましたが、法人設立時等に行政側で自動的に適用事業所として認定するような仕組みにはなっておらず、自ら手を挙げて適用事業所になるための手続きをする必要があります。そのため、本来は適用事業所に該当しているのに、手続き漏れ等が原因で従業員が社会保険に未加入になっているケースはある程度みられますので、これから法人の設立等を検討している方は注意が必要です。

■社会保険の加入義務


社会保険に加入する従業員を被保険者と言いますが、一部の例外はあるものの、基本的に適用事業所に勤務する以下の従業員は被保険者に該当します。つまり、社会保険への加入義務がある人です。

  • 正社員
  • 週所定労働時間が正社員の3/4以上、かつ、月所定労働日数が正社員の3/4以上の従業員


何となくイメージできるかもしれませんが、正社員はその時点で被保険者の対象となります(制度上は「通常の労働者」と言いますが、「通常の労働者」を正社員に置き換えても差し支えないです)。正社員が加入のベースとなりつつ、週所定労働時間と月所定労働日数がいずれも正社員の3/4以上の従業員にも加入義務があるという考え方です。

例えば、正社員の週所定労働時間が40時間、月所定労働日数が20日という会社の場合、週所定労働時間が30時間以上、かつ、月所定労働日数が15日以上の従業員も社会保険に加入させる必要があります。週所定労働時間と月所定労働日数は「かつ」ですので、いずれかが未満だった場合、加入義務はありません。

パチンコ店では月の出勤日数は多いものの1日あたり2、3時間しか勤務しないような清掃要員のアルバイトやパートがいたりしますが、そのようなアルバイト等は、週所定労働時間の3/4以上を満たさないことが多く、結果、社会保険の加入義務を満たしていないことがほとんどです。

一部の短時間労働者には別の加入基準がある


上記が社会保険の加入義務に関する原則的なルールになりますが、一部の短時間労働者には別の加入基準が存在します。

短時間労働者とは制度上、適用事業所に勤務する「週所定労働時間が正社員の3/4未満、または、月所定労働日数が正社員の3/4未満の従業員」を言い、この内、特定適用事業所に勤務する以下に該当する短時間労働者には社会保険の加入義務が生じます。特定適用事業所とは、従業員数が101人以上の適用事業所のことを指します。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 給与(残業代、通勤手当等は除く)が月88,000円以上
  • 2か月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない


「一部の短時間労働者」と書いたとおり、あくまで特定適用事業所に勤務する短時間労働者が対象です。例えば、従業員数10人程度の会社に勤務する短時間労働者は、上記基準を満たしていても加入義務は生じません。また、そもそも適用事業所に該当していない個人事業主に雇われている場合も対象にはなりません。

2024年10月から特定適用事業所の従業員数要件が101人以上から51人以上に


前述のとおり、特定適用事業所は従業員数が101人以上の適用事業所を指しますが、2024年10月以降、この人数要件が51人以上へ引き下げられます。特定適用事業者の人数要件については、「2016年10月以降501人以上」、「2022年10月以降101人以上」と段階的に引き下げられてきた経緯があり、現時点では「2024年10月以降51人以上」が最終形になっています。

人数要件が下がることにより、特定適用事業所が増加するのは明らかですので、加入対象となる短時間労働者が増えることとなります。従って、現在、従業員数が51人以上100人未満の適用事業所におかれては、下記のような事項を理解、認識しておく必要があります。

■従業員数の考え方


特定適用事業所の従業員数は「厚生年金保険の被保険者数」でカウントします。短時間労働者は含みません。また、12か月の内、6か月以上で従業員数が51人以上いることが見込まれるかが判断基準になります。

ですので、例えば、正社員40人(全員厚生年金保険の被保険者)、アルバイト160人(全員短時間労働者)、計200人の会社において、過去に厚生年金保険の被保険者数が51人以上になったことはなく、また、今後も変動がないと見込まれるような場合、つまり、12か月で6か月以上51人以上になる見込みがない場合は特定適用事業所に該当しないこととなります。

■特定適用事業所に該当する場合


特定適用事業所に該当する場合は、自主的に特定適用事業所該当届を日本年金機構に提出する必要があります。ちなみに、2023年10月から2024年8月までの各月の内、厚生年金保険の被保険者数が6か月以上51人以上であったことを日本年金機構側で確認できた場合は、2024年10月以降、特定適用事業所に該当するものとして取り扱われ、日本年金機構より「特定適用事業所該当通知書」という書面が発送されることとなっています。この「特定適用事業所該当通知書」が届いた時は、特定適用事業所該当届の提出は不要です。

■短時間労働者に対する事前の説明等


短時間労働者の中には、とりわけ扶養の関係で意識的に収入を抑えている人が少なくないため、加入義務が生じ得る短時間労働者に対しては、事前に加入の可能性等を説明しておくことが望ましいと言えます。その際、傷病手当金や将来の厚生年金の受給等、社会保険の加入メリットを説明すれば積極的な社会保険への加入に繋がる可能性があります。

また、社会保険加入後は、扶養という壁がなくなることによって勤務時間の増加や正社員等へのキャリアアップも期待でき、ひいては会社業績の向上に結びつくかもしれません。一方で、依然扶養の範囲内の勤務を希望する短時間労働者については、週の所定労働時間を20時間未満に減らす等の調整が必要になると考えられます。


今回は、社会保険の適用拡大についてのコラムでした。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。


このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。