CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-11-22
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
【2024年4月施行】労働条件明示のルール変更



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回は、2024年4月から施行される労働条件明示のルール変更についてのコラムになります。

労働条件明示とは


労働条件明示とは、労働契約の締結に際し、使用者が労働者に対して所定の労働条件を明示する行為のことで、労働基準法第15条に規定されています。実務上、「労働条件通知書」や労働条件の明示を兼ねた「雇用契約書」等で明示するのが一般的です。明示すべき労働条件は、次のとおり絶対的明示事項と相対的明示事項に分けることができます。

■絶対的明示事項


絶対的明示事項とは、必ず明示しなければならない事項で、原則書面による交付が必要です(昇給に関する事項除く)。労働者が希望した場合は、FAXやメール等でも交付可能ですが、書面で出力可能な形式で交付する必要があります。以下が絶対的明示事項になります。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  • 就業場所及び従事すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等に関する事項
  • 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)


■相対的明示事項


相対的明示事項とは、労働条件として設けている場合に明示が必要な事項です。絶対的明示事項とは異なり、書面での交付は求められていないため、口頭による通知等でも大丈夫です。しかしながら、無用な労務トラブルを起こさないためにも、絶対的明示事項と併せて書面で明示するのが望ましい対応と言えます。以下が相対的明示事項になります。

  • 退職金に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金、賞与等に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品等に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項


どのようなルール変更?目的は?


2024年4月からのルール変更では、上記の明示事項に加え、次の4つの事項の明示が必要になります。

【全労働者が対象】


  1. 就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲


【有期契約労働者が対象】


  1. 有期労働契約の更新上限の有無及び内容
  2. 無期転換申込機会
  3. 無期転換後の労働条件


まず、「全労働者が対象」になる①については、多様な正社員の労働契約の明確化が背景にあります。
多様な働き方の広まりを受け、就業場所や業務内容を限定した正社員、いわゆる勤務地限定正社員や職務限定正社員が認知されつつありますが、既存の枠組みでは、労働条件の明示が曖昧になる等、労使間で認識相違が生じる可能性がありました。今般のルール変更は、そのような懸念を解消した上で、多様な正社員の普及、促進を目指すものです。

なお、①は元々、多様な正社員にフォーカスされていましたが、労働契約の明確化は全ての労働者に有益であること等を踏まえ、全労働者が対象になりました。

次に、「有期契約労働者が対象」になる②~④については、無期転換ルールのさらなる健全化と活用促進が目的です。無期転換ルールとは、有期労働契約が更新によって通算5年を超えたときに、労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるルールのことです。②に関しては、「全ての有期契約労働者が対象」になりますが、③と④は、「無期転換申込権が発生する有期契約労働者が対象」になります。

明示が必要となる4つの事項の取扱い


■就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲


これまでは、労働契約締結後の就業場所と従事すべき業務を明示していれば事足りていましたが、施行後は、「変更の範囲」の明示も必要になります。「変更の範囲」とは、異動や配置転換によって変更の可能性がある就業場所や従事すべき業務のことです。

例えば、千葉本店と大阪支店を有する会社が、転勤の可能性がある労働者を千葉本店で採用する場合、就業場所については、「就業場所:千葉本店 変更の範囲:千葉本店、大阪支社」のように明示する必要があります。

従事すべき業務も同じような考え方で、営業職で採用するものの、将来的に経理やホールスタッフへ配置転換の可能性がある場合は、「従事すべき業務:営業 変更の範囲:営業、経理、ホールスタッフ」のように明示することとなります。

■有期労働契約の更新上限の有無及び内容


有期労働契約の締結及び更新の都度、更新上限の有無と内容の明示が必要になります。更新上限とは、「通算契約期間」又は「更新回数」の上限を指します。
従って、今後は、労働条件通知書等に「通算契約期間は3年とする」、「更新回数は3回までとする」のような文言が必要になります。

なお、更新上限を新たに設ける場合と、更新上限を短縮する場合は、それぞれそのタイミングまでに、事前に対象者に対して説明する必要がありますので、その点も注意しなければいけません。

■無期転換申込機会


無期転換申込権が発生する契約更新の都度、無期転換を申し込むことができる旨(=無期転換申込機会)を書面により明示することが必要になります。例えば、1年契約の有期労働契約(更新上限なし)を4回更新している有期契約労働者に対しては、無期転換申込権が発生する5回目の更新時に、無期転換申込機会を書面で明示することになります。

なお、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も、有期労働契約を更新する場合は、その都度、この明示が必要になります。

■無期転換後の労働条件


無期転換申込権が発生する契約更新の都度、無期転換後の労働条件を書面により明示することが必要になります。原則として、無期転換申込機会の書面による明示と、無期転換後の労働条件の書面による明示は、同じタイミングで行うこととなります。


今回は、労働条件明示のルール変更について書かせていただきました。
今回のルール変更は、労働条件明示の際に利用している「労働条件通知書」や「雇用契約書」等のメンテナンスが必須になります。また、有期労働契約の更新上限が曖昧になっている場合は、就業規則に規定するなどして明確にする必要があります。
下記の厚生労働省のサイトに掲載されているパンフレット等をご確認いただくなどし、対応漏れがないようご注意下さい。

厚生労働省(令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html



このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。