CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-07-26
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
失業給付の給付制限期間の見直し



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
現在、失業給付(本コラム内では「基本手当」を指します)の給付制限期間の見直しが検討されていることはご存知でしょうか。

給付制限期間とは、失業給付を一定期間受給できない期間のことで、自己都合退職時に適用されるものです。令和2年10月に、3か月から原則2か月に短縮されていますが、さらなる見直しを検討するとのことで、個人的には大きなサプライズです。

ということで、今回は、失業給付の給付制限期間について書かせていただきます。

所定給付日数、給付制限期間についてのおさらい


所定給付日数


1.一般の離職者※1



※1自己都合で会社を退職した場合がこれに該当。

2.特定受給資格者(一部の特定理由離職者含む)※2



※2倒産や解雇等の会社都合で会社を退職した場合がこれに該当。

3.就職困難者※3



※3身体障害者、社会的事情により就職が著しく阻害されている方等がこれに該当。

自己都合退職と会社都合退職を比較した場合、会社都合退職の所定給付日数が優遇されているのは一目瞭然です。被保険者であった期間(雇用保険の加入歴)が長ければ長いほど、年齢が高ければ高いほど、その傾向は顕著と言えます(45歳以上60歳未満が一番手厚い)。

給付制限期間


自己都合で退職した場合は、原則2か月の給付制限期間があります。一般の離職者はもちろんのこと、所定給付日数が手厚い就職困難者についても、自己都合退職時においては、給付制限期間が適用されます。一方、会社都合退職に該当する特定受給資格者(一部の特定理由離職者含む)については、給付制限期間は適用されません。

以上のように、自己都合退職時は、会社都合退職時と比べて、給付内容が抑えられた制度設計となっています。

失業給付制度の見直しが検討されている


現在、新しい資本主義実現会議の場において、失業給付の給付制限期間の見直しが議論されています。これは、労働移動の円滑化という観点から、給付制限期間があることによって、人材の流動化(退職)が阻害されているという問題意識があるようです。

これを解消すべく、例えば、失業給付の申請時点から遡って1年以内にリスキリングに取り組んでいた場合は、会社都合退職時と同様に給付制限期間を設けない等、自己都合退職時の要件を緩和する方向で検討が進められています。従いまして、将来的には、自己都合退職時と会社都合退職時の給付内容が変わらなくなるといったことも想定されます。

一方で、雇用保険制度研究会(厚生労働省の研究会)においては、次のような問題点も指摘されています。

  • 給付制限期間の存在によって雇用の切れ目を作らずに転職する人が一定数いるとすると、給付制限期間の短縮により一定期間の失業を選択しやすくなると考えられる。転職しやすい労働市場が整っていれば離職後に安心して転職活動に専念でき、より良い職に就く可能性もあるが、そうでなければ単に失業者が増えるだけとなりかねない。安易に離職したり、給付の受給を目的に離職したりすることをどう防ぐかは課題。
  • 給付制限期間の短縮は、理論上は、離職を促し求職期間を伸ばす一方でマッチングの質が向上すると考えられる。しかし、現実には、本来離職期間なく転職できた者が失業給付を受給するために一定の離職期間をおいて転職するといった行動を誘発する可能性もあり、理論とは異なって難しい面がある。
  • 転職活動の際に、前職を離職する前に転職先を決めるような労働者については、給付制限期間短縮による転職促進効果はそれほど期待できない。
  • 諸外国の失業給付における自己都合離職の取扱いを見ても、自ら保険事故を起こした自己都合離職の場合は給付しないか給付制限期間を設けており、給付制限期間を撤廃することには慎重であるべき。
  • 失業保険において非自発的な失業が本来の保険事故という考え方には、「自発的失業が本来望ましくない選択である」という発想があったのではないか。ただし、何が本来の保険事故かということと、モラルハザードを防止することは別次元の話である。
  • 安易な離職の防止の観点から給付制限期間をなくすことは躊躇するが、失業中の生活の安定も含めて考えると給付制限期間は1ヶ月程度でもよいのではないか。
  • 転職を望む者は在職中から求職活動しており、成長産業への労働移動を促したいなら、給付制限期間の短縮よりも在職者支援や教育訓練を充実させるべきではないか。転職を望む者を支援するのであれば、失業状態に陥ることを想定して給付制限期間を短縮・撤廃するよりも、失業状態を経ない労働移動を実現するために、在職中からの就職支援を強化する方が本筋ではないか。

雇用保険制度研究会 中間整理」より抜粋。



今後の展望


新しい資本主義実現会議にて議論されている事項ですので、何かしら制度が変更される可能性は高いと思われますが、問題点、懸念点が多いことも事実です。労働移動の円滑化は、給付制限期間の有無だけで解決できるものではないため、今後は、リスキリングのさらなる拡充、解雇規制の緩和等も同時に検討しながら、議論を進めていくものと思われます。

今回もコラムをお読みいただき、ありがとうございました。



このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。