CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-06-28
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
親を扶養に入れると節税になるか



顧問先の従業員の方から「親を社会保険の扶養に入れたい」といったご依頼やご相談を頂くことがあります。親御様が退職によって社会保険の資格を喪失したことや、勤務形態の変更に伴って給与額が減少したことを契機としたものではありますが、状況を詳細にお聞きすると、「親の社会保険料の負担軽減」や「自身の所得税の節税」といった目的を有していることが少なくありません。

昨今は、インターネット上で「投資」や「節税」をテーマにした情報を見る機会が多いです。「親を扶養に入れて節税」のような情報もあるようですので、そのようなことも「親を扶養に入れるニーズ」に影響しているのではないでしょうか。

ということで、今回は、親を扶養に入れる場合の取扱いについて書かせていただきます。

親を扶養に入れることで享受できること


上記で少し触れましたが、「健康保険料」と「税金」の納付額が減少するという点で有利になると言えます。

健康保険料については、親を扶養に入れることにより、親自身の健康保険料を納付することがなくなりますので、その分の負担が軽減されます。仮に、親に年間で100,000円の国民健康保険料を納付する義務があった場合、子の扶養に入れば納付自体がなくなりますので、家計全体でみれば100,000円得することになります。

税金に関しては、まず、所得税の減額が期待できます。例えば、55歳の親を扶養に入れる場合、扶養控除として380,000円を課税所得から控除できるため、子の課税所得が500万円だったときは、76,000円(380,000円×所得税率20%)の節税が可能です。

ご存知のとおり、所得税は累進課税方式ですので、高い所得税率が適用されている人ほど節税効果があると言えます。加えて、住民税では扶養控除として330,000円を課税所得から控除できるため、さらに33,000円(330,000円×一律10%)の節税効果を享受することができます。

健康保険上の扶養と税法上の扶養は異なる


健康保険料と税金でメリットがあると説明しましたが、そもそも健康保険上の扶養と税法上の扶養は全く異なるものです。以下に主な要件の違いをまとめましたので、ご参照下さい(以下は親が子の扶養に入ることを前提とした表現にしていますが、基本的に他の対象者でも同内容(一部除く)が適用されます)。

主な要件健康保険上の扶養※税法上の扶養
生計関係子に主として生計を維持されている親が扶養に入ることができる。子と生計を一にしている親が扶養に入ることができる。
親の収入(所得)向こう1年間の収入が130万円未満(60歳以上の場合は180万円未満)。その年の所得金額が48万円以下
(給与収入ベースで年収103万円以下)。
親の年齢75歳未満上限はない
子と親が同居(国内)している場合「親の収入が子の収入の半分未満」でなければならない。個別の要件はない。
子と親が別居(国内)している場合
  • 子が親へ仕送りしている必要がある。
  • 「親の収入が子からの仕送り額未満」でなければならない。
  • 扶養加入時等においては、仕送りの事実が確認できる通帳や振込明細等の提示が必要になる。
  • 子が親へ仕送りしている必要がある。
  • 具体的な仕送り額の要件はない。
  • 年末調整時等に扶養控除異動申告書で申告する。仕送りの事実が確認できる通帳や振込明細等の提示は必要ない(あると望ましい)。
※別居時の仕送りの額や、仕送りの事実が確認できる書類等については、保険者によって取扱いが異なるため、詳細は保険者又は会社にご確認下さい。

生計関係について、健康保険では、被保険者に主として生計を維持されている被扶養者が、当該被保険者の扶養に入ることができる仕組みです。「被保険者に主として生計を維持されている」という実態が求められるため、例えば、「父(無職)、母(無職)、子(健康保険の被保険者)」の3人が同居している家族があって、父が全面的に生活費を支出していた場合は、子は父や母を扶養に入れることはできません。

所得税の「生計を一にしている」とは、シンプルに「生活費の財布が同じ」のようなイメージです。健康保険と異なり、「誰かに主として面倒をみてもらっている」というような状態は必要ありません。

収入(所得)要件に関して、健康保険と税法では、「期間の考え方」と「額」で違いがあり、とりわけ「期間の考え方」は混同や勘違いが多いです。健康保険の扶養は、向こう1年間の収入で判定します。

例えば、「ある年の1月1日から11月30日まで会社員として勤務」、「その間の給与収入は500万円」、「11月30日に退職して12月1日以降は当面無職で収入はない」のような状況の親がいた場合、親が他の要件を満たしていれば、子はその親を12月1日付で扶養に入れることが可能です。その年の収入(いわゆる年収)では判定しません。一方、税法の扶養は、その年の所得(年収)で判定します。前述の親の場合、その年は少なくとも給与収入が500万円ありますので、その年は扶養に入れることはできません。

健康保険、税法ともに、同居、別居関係なく扶養に入れることはできますが、別居時の取扱いについては、健康保険の方が厳格なルールになっていると言えます。

親を扶養に入れる際に留意すべき点



■親を健康保険上の扶養に入れても親の国民年金保険料は納付する必要がある


60歳未満の親を健康保険の扶養に入れた場合、親の健康保険料の納付はなくなりますが、親の国民年金保険料の納付はなくなりません。親は自身で納付する必要があります。国民年金保険料の納付がなくなるのは第3号被保険者(配偶者が配偶者の扶養に入る場合)に限ったものです。この点は勘違いされている方が多いです。「親の社会保険料の負担軽減」を想定されている場合は、ご注意下さい。

■親の収入状況はチェックされる


【健康保険】


少なくとも年に1回、保険者(協会けんぽや健康保険組合)の要請に基づき、会社にて扶養状況の確認が行われます。必要に応じて仕送り状況が確認できる書類等を会社に提示するなど、要件を満たしているか精査されます。要件を満たしていない場合は、扶養から外れることとなります。

【所得税】


会社は年末調整後、社員の給与情報を市区町村に報告しますが、扶養控除対象がいる場合は、その情報も市区町村に報告します。一方、親がアルバイトやパートをしていた場合、その勤務先からも市区町村に対して親の給与情報が報告されます。仮に、Aさんが年末調整にて、母親を扶養控除の対象(所得0円)として申告していた中、実はAさんの母親の所得が100万円であった場合、市区町村では、Aさんの母親の所得は0円ではなく100万円として処理します。

つまり、住民税の扶養控除は適用されません。さらに、この情報は税務署に共有されるため、後日(概ね数年後)税務署から、該当年分の扶養状況を見直すよう連絡がきます。税務署は確かな根拠を持って連絡してきますので、この連絡があったときは、遡って年末調整を行い、不足分の所得税を納付することとなります。



今回は親を扶養に入れる場合の取扱いについて書かせていただきました。
親を扶養に入れることにより健康保険料や税金でメリットがある一方、子の収入額(収入が少ない)や、仕送り額(仕送り額が高額)によっては、あまり恩恵を受けることができない可能性もありますので、その点も十分に踏まえてご検討いただく必要があると言えます。

今回もコラムをお読みいただき、ありがとうございました。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。