CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-06-22
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
1か月単位の変形労働時間制



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回のコラムでは「1か月単位の変形労働時間制」について書かせていただきます。

早く帰った日の未就労時間を別の日の残業に振り替えることはできる?


「1か月単位の変形労働時間制」等の変形労働時間制を利用していないお客様から、既存の労務管理について相談を受ける際に、次のような勤怠管理、給与計算をしているとお聞きすることがあります。

1日の所定勤務時間:8時間


  1. 忙しくない日は所定終業時刻前に退社させている(6時間しか勤務していない)
  2. 忙しい日には①の早く帰った時間分も働かせている(8時間+①の2時間分=10時間)
  3. 上記は同一週で処理しているため②では2時間分の残業代を支給していない

これは適切な運用と言えるでしょうか?
仮に、1週の勤務時間が40時間に収まっていたら残業代は支給しなくても問題ないでしょうか?

残念ながら上記の運用は不適切と言えます。
通常、②において「時間単価×1.25×2時間」で計算した残業代を支給する必要があります。

早く帰った日の未就労時間を別の日の残業に「振り替えることができる」、「充当することができる」と認識されている方は意外に多いのですが、それは認められていません。残業は日毎かつ週毎に管理しなければなりません。ただし、「1か月単位の変形労働時間制」を利用している場合は、あらかじめルールを定めておくことにより、上記運用のような勤務を実現することが可能です。

「シフト制」とは


「1か月単位の変形労働時間制」を説明する前に、「シフト制」について整理します。

パチンコ店や飲食店等のサービス業の勤務においては、「シフト制」が広く利用されていると思われますが、「シフト制」は労働基準法に概念や定義が規定されているわけではありません。

ご存知のとおり、労働基準法には「法定労働時間(1日8時間、1週40時間)」と「法定休日(週1日の休日)」が定められていますが、「シフト制」は、あくまでその範囲内で出勤日や勤務時間をやり繰りするための手段、呼称です。単に、バランスの取れた人員配置を確保するための勤務の振分け方法に過ぎないのです。

週単位や月単位で勤務時間の時間枠を設けることができるわけではありませんので、十分な注意が必要です(「1か月単位の変形労働時間制」の利用を踏まえて、広い意味で「シフト制」と呼んでいる場合もあります)。

1か月単位の変形労働時間制とは


■「1か月単位の変形労働時間制」の特徴


「1か月単位の変形労働時間制」の特徴は、「1か月以内の期間を平均して1週間当たりの所定勤務時間が40時間を超えなければ、8時間を超える勤務時間を設定した日や、40時間を超える勤務時間を設定した週は、その設定した時間までは残業が発生しなくなる」という点です。

例えば、ある日の勤務時間を12時間と設定した場合、その日は12時間を超えるまでは残業とはならず、もちろん12時間までは残業代を支給する必要もありません。つまり、労働基準法の原則である1日8時間や1週40時間を超えても残業代を支給する必要がない日や週を設けることができるのです。

従いまして、「1か月単位の変形労働時間制」を上手に活用すれば、事前に勤務日の勤務時間を調整することにより、冒頭の勤務時間の振替のようなことが可能となり、結果として、不必要な残業を削減することができます。

■「1か月単位の変形労働時間制」を利用するための要件


「1か月単位の変形労働時間制」を利用するにあたっては次のような要件があります。

  • あらかじめ「対象者」、「対象期間と起算日」、「出勤日と出勤日毎の勤務時間」を決める
  • 上記事項を「就業規則に規定し労基署に届出」又は「労使協定を締結し労基署に届出」

「出勤日と出勤日毎の勤務時間」等を決める点では、「シフト制」と同じイメージですが、決定的に異なるのは、「1か月単位の変形労働時間制」は、「就業規則に規定し労基署に届出」又は「労使協定を締結し労基署に届出」が必要になる点です。

■「1か月単位の変形労働時間制」に適している業務


「1か月単位の変形労働時間制」に適しているのは、週や月の中で繁閑がある業務です。

例えば、毎月月初から中旬頃まではそこまで忙しくなく、20日頃から月末にかけて忙しくなるような業務の場合、「第1週から第3週までは1日の勤務時間を7時間程度」とし、「第4週の全勤務日の1日あたりの所定勤務時間を10時間とする(=10時間までは残業代の支給は不要)」のような勤務を設定することが可能になります。

反対に、勤務時間が常態的に8時間を超えるような業務は、そもそも所定勤務時間を分散する余地がありませんので、「1か月単位の変形労働時間制」を利用するメリットはほぼないと言えます。



今回は、「1か月単位の変形労働時間制」について書かせていただきました。

「1か月単位の変形労働時間制」は、効率的な勤務を確保することができますので、労使双方にとって非常に有益な制度と言えます。週や月の中で繁閑がある業務を有する企業様で、まだ導入されていない場合は、是非ご検討してみてはいかがでしょうか。


このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。