CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-03-23
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
令和4年度に予定されているキャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更について


皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。

今回のコラムは令和4年度に予定されているキャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更についてです。予算の成立と関係法令の改正が前提の制度変更ではありますが、先日、一部情報が厚生労働省のホームページに公表されました。

令和4年10月1日以降に正社員転換する(実質令和4年4月1日以降に採用する)非正規雇用労働者から適用される変更となっていますので、キャリアアップ助成金の利用を想定されている企業様は是非ご参照下さい。

正社員化コースで制度変更が予定されている点


以下は、厚生労働省のホームページに掲載されたリーフレット「キャリアアップ助成金が変わります~令和4年4月1日以降変更の概要~」から一部抜粋した文章になりますが、今回、正社員化コースでは正社員と非正規雇用労働者の定義が変更される予定です。

■ 正社員定義の変更


「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正社員への転換が必要となります。

  • 現行 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者
  • 改正後 同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者
※ ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る


■ 非正規雇用労働者定義の変更


「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されている非正規雇用労働者の正社員転換が必要となります。

  • 現行 6か月以上雇用している有期または無期雇用労働者
  • 改正後 賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者
例)契約社員と正社員とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い)などが適用されるケース


制度変更の背景


今回の変更には同一労働同一賃金が背景にあると考えられます(同一労働同一賃金とは、簡単に言うと、「同じ仕事をしているならば同じ給与(待遇)を適用する」といった趣旨のルール)。

同一労働同一賃金については、令和2年4月(中小企業は令和3年4月)から施行されていますが、元々キャリアアップ助成金は、同一労働同一賃金の実現を補完すること等を目的に設計、運用されてきた経緯があります。しかしながら、実は現行のキャリアアップ助成金には同一労働同一賃金のエッセンスが完全には落とし込まれていません。

下の「Q&A」は厚生労働省が公表している「キャリアアップ助成金Q&A(令和3年度版)」から一部抜粋したものになりますが、これを読むと、キャリアアップ助成金という枠の中では、同一労働同一賃金に対するスタンスがやや曖昧であることがお分かりになるかと思います。

Q
Q-12. 同一労働同一賃金を採用している事業所で有期雇用労働者と正規雇用労働者の職務内容に違いがないため、賃金は同一額を支給している場合、賃金3%以上増額要件をどのように満たせば良いのでしょうか。
A
A-12. キャリアアップ助成金については、有期雇用労働者等の正規雇用労働者等への転換、処遇改善等、企業内でのキャリアアップを促進するための包括的な助成措置として創設されたものであり、同一労働同一賃金の実現など非正規雇用労働者の待遇改善に係るインセンティブ付与を目的として運用しているところです。

同一労働同一賃金が完全実施されている企業においては、非正規雇用労働者の待遇改善がこれ以上見込まれないため、賃金3%以上の増額することは困難と思われますが、雇用保険料という限られた財源を有効活用するためにも、賃金3%増額要件を設けていること等に対してご理解ください。

キャリアアップ助成金Q&A(令和3年度版)より



これまでのキャリアアップ助成金は、どちらかと言えば、「非正規雇用労働者を正社員に転換する行為」にフォーカスした助成制度で、同一労働同一賃金の観点から非正規雇用労働者と正社員の業務内容や待遇について精査されることはありませんでした。

今回の制度変更により、同一労働同一賃金を考慮する必要が生じてきますので、完全に同一労働同一賃金に対応できていない企業様がキャリアアップ助成金を利用する場合は、少なからず何かしらの対策が必要になると考えらえます。

考えられる対策と留意点


■ まずは同一労働同一賃金の理解を深める


まずは同一労働同一賃金がどのような制度か、今一度理解を深める必要があります。とりわけ、これまでにキャリアアップ助成金を活用したことがある企業様の場合は、一度キャリアアップ助成金に関する知識を全てリセットしたうえで、同一労働同一賃金の理解を深め、その後改めてキャリアアップ助成金の制度を把握した方が良いかもしれません。

■ 正社員と非正規雇用労働者の業務内容や待遇の整理


今回予定されている非正規雇用労働者定義の変更に関して、従来の表現が「賃金の額または計算方法が『正社員と異なる雇用区分の就業規則等』の適用を6か月以上受けて」という文言に変更されますが、これは、「正社員と非正規雇用労働者では待遇が異なる」といった考えが前提になると捉えることができます。

「待遇差さえあれば正社員化コースの対象になる」と思われるかもしれませんが、同一労働同一賃金の趣旨を踏まえると、「待遇が異なる」は裏を返せば「業務内容が異なる」に繋がり得ますので、残念ながらそのような思考は適切とは言えません。

例えば、「正社員と非正規雇用労働者に同じ労働条件が適用されている」、「正社員時と非正規雇用時の業務内容が全く同じ」などのような場合は、正社員化コースの対象外と判定される可能性があります。

今一度、正社員と非正規雇用労働者の業務内容や待遇を整理するとともに、必要に応じて就業規則や雇用契約書等を見直しましょう。

■ 同一労働同一賃金は雇用する全ての労働者に適用するもの


同一労働同一賃金は雇用する全ての労働者に適用されるものです。「キャリアアップ助成金の対象となる労働者には適用するもののそれ以外の労働者には適用しない」といったような運用はできません(助成金の審査過程では実態確認と称して、申請対象労働者以外の労働者の雇用契約書や賃金台帳等の提出を求められることもあります)。就業規則や雇用契約書等の変更が必要な場合は、その点も踏まえて対応しましょう。

今回は、令和4年度に予定されているキャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更について書かせていただきました。正式な制度は令和4年4月以降に公表されますので、公表され次第改めて本コラムにてご案内させていただきます。

このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。