CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-04-27
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
令和4年度キャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回のコラムは令和4年度キャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更に関してです。

前回のコラム後、厚生労働省から正式に制度、要件が公表されまして、その内容及びそれに対する考え方等について書かせていただきます。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の定義変更


以下は、厚生労働省のホームページに掲載されている「キャリアアップ助成金のご案内」を参照して作成した、令和4年9月30日までと令和4年10月1日以降の正規雇用労働者、非正規雇用労働者の定義になります。

■ 正規雇用労働者定義の変更


  • 9月30日まで 同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者
    ※正社員待遇が適用されていない正規雇用労働者としての試用期間中の者は、正規雇用労働者から除く
  • 10月1日以降 同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者
    ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る
    ※正規雇用労働者としての試用期間中の者は、正規雇用労働者から除く者


■ 非正規雇用労働者定義の変更


  • 9月30日まで 雇用される期間が通算して6か月以上の有期雇用労働者または無期雇用労働者として雇用される期間が6か月以上の無期雇用労働者
  • 10月1日以降 賃金の額または計算方法が「正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している有期または無期雇用労働者
例)契約社員と正規雇用労働者とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い)などが適用されるケース

正規雇用労働者定義の変更について


■ 実際に賞与の支給や昇給が必要か


上記のとおり、10月1日以降は「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている正社員への転換が必要となります。これは、「労働条件として適用されていることが必要」という意味で、正社員転換から助成金支給申請までの間に、「必ず賞与を支給している必要がある」、「昇給させていなければならない」ということではありません。

ただし、通常、賞与や昇給については就業規則に基準、時期等を明示しますので、助成金の支給申請までの間に当該基準等を満たしている場合においては、そのとおりに対応する必要があります。

なお、支給申請後の労働局の審査では、この部分の運用状況をチェックすると考えられ、場合によっては、その確認用として追加書類の提出要請等があると予想されます。仮に、就業規則の規定どおりの運用がなされていないときは、不支給となり得ますので十分にご留意下さい。

■ 試用期間の取扱いの変更


従前(9月30日まで)は、正規雇用労働者への転換後、試用期間中であっても正社員待遇が適用されていればキャリアアップ助成金の対象となっていましたが、10月1日以降は、正社員待遇の適用有無にかかわらず、試用期間が適用されている時点でキャリアアップ助成金の対象から外れることとなりました。

実務上、非正規雇用労働者から正社員になったタイミングで試用期間を設けるケースは、あまり多くはない印象があります。ある意味、非正規雇用労働者としての雇用期間が試用期間のような役割を兼ねているからです。もちろん、適用すること自体は問題ありませんが、その場合はキャリアアップ助成金の対象外となります。

なお、創業時等当初就業規則作成後に、キャリアアップ助成金の活用を想定した正社員転換制度を追加導入している場合は、意図しない試用期間が残存している可能性があるので注意が必要です。

例えば、正規雇用労働者向けの就業規則に「試用期間は3か月間とする」といったような条文がある場合は、正社員には一律試用期間が適用されているものと労働局に判断され、キャリアアップ助成金の支給要件に合致しないと指摘されることが考えられます。

このようなことを避けるためにも、今一度、就業規則の条文や雇用契約書の文言は見直しした方が良いかもしれません。

非正規雇用労働者定義の変更について


■ 「『正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等』が適用されている」とは


「異なる」とありますので、正規雇用労働者と非正規雇用労働者とで別個の就業規則が必須であるかのように読めますが、必ずしもその必要はありません。

例えば、正規雇用労働者向けと非正規雇用労働者向けの就業規則が一体となっていても、「正社員」、「契約社員」等の定義が就業規則内で規定され、かつ、それぞれに適用される労働条件が明確になっていれば大丈夫です。

ただし、同一労働同一賃金のたしかな運用を考慮すると、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の就業規則は、別々に作成していた方が管理しやすいと思料されます。

■ 「賃金の額または計算方法」の「違い」


前述のとおり、就業規則が一体であるか否かは問われませんが、就業規則では正規雇用労働者、非正規雇用労働者それぞれについて、「賃金の額または計算方法」を規定する必要があります。では、キャリアアップ助成金の申請を想定した場合、どのように規定すれば良いのでしょうか。

どのような「違い」があれば良いのでしょうか。
「キャリアアップ助成金のご案内」には次のようなことが書かれています。

基本給、賞与、退職金、各種手当等については、いずれか一つ以上で正規雇用労働者と異なる制度を明示的に定めていれば(基本給の多寡や賞与の有無等)支給対象となり得ます。


(厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」より引用)



上記のとおり、「違い」は「基本給、賞与、退職金、各種手当等については、いずれか一つ以上」とされています。従って、例えば賞与に関して、「正社員には〇月に基本給の〇月分を賞与として支給する」、「契約社員及びアルバイトには賞与を支給しない」という規定があれば、要件を満たすこととなります。

なお、本件に限ったことではありませんが、新たに設けられた助成金の要件は、運用開始後、より厳格に変更される傾向があります。それを踏まえると、就業規則を作成又は見直しする際は、「いずれか一つ以上」を「一つだけで可」と解釈せずに、自社の実態及び同一労働同一賃金の考え方を十分に意識した方が建設的と言えます。

■ 契約期間に関する規定がないと有期雇用労働者が無期雇用労働者扱いに


有期雇用労働者に関して、就業規則に契約期間の定めに関する規定がない場合は、無期雇用労働者として見なされることとなりました(令和4年10月1日以降)。これがない場合は、「有期雇用労働者から正社員への転換」ではなく、「無期雇用労働者から正社員への転換」として扱われ、支給申請額も当該転換に応じた額となりますので、十分にお気をつけ下さい。

今回は、令和4年度キャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度変更について書かせていただきました。
変更自体は令和4年10月1日からの適用となりますが、実質は令和4年4月1日以降に採用する非正規雇用労働者が対象となり得ます。転換時又は支給申請時に、「要件を満たしていないことが判明した」などといったことがないようご注意下さい。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。