CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-02-23
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
社会保険の定時決定に関する実務的な留意点



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回のコラムは社会保険の「定時決定」に関するものになります。

「定時決定」は「算定基礎届」と呼ばれる手続きのことで、手続き自体は7月に行うものです。
やや季節外れのテーマとなりますが、今回一番お伝えしたいことは本コラムの最後の方に書かせていただきました。

「定時決定」や「社会保険料の決定方法」等について熟知されている方々、お時間がない方々は、最後の方のみをお読みいただければと存じます。

  • ※本コラムの内容はいわゆる「正規社員(役員含む)」を前提としています。
  • ※本コラム内の「給与」や「手当」は「標準報酬月額の対象となる報酬」を前提としています。


標準報酬月額とは


まずは「標準報酬月額」についてのおさらいになります。

「標準報酬月額」とは、給与の額ごとに定められた社会保険料の基準となる等級のことで、一つの等級毎に同額の社会保険料が適用されています。また、制度上、給与の月額に相当するものを「報酬月額」と言いますが、「報酬月額がX円以上からY円未満までの場合はZ等級に該当」のように一定範囲を一つの等級とする仕組みになっています。

従いまして、例えば「標準報酬月額300,000円」の場合の「報酬月額」は、「290,000円以上から310,000円未満まで」となっていますが、給与の額が290,000円であっても309,999円であっても「標準報酬月額」は300,000円に該当することとなるため、いずれも同額の社会保険料が適用されます。

標準報酬月額の決定タイミング


標準報酬月額を決めるタイミングは複数ありますが、「資格取得時決定」、「定時決定」、「随時改定」について簡単にご説明させていただきます。

■ 資格取得時決定


会社等への入社により社会保険へ加入することを資格取得と言い、その資格取得時における標準報酬月額の決定を「資格取得時決定」と言います。

今回は月給制についてのみ触れますが、月給制の場合の報酬月額は、「月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の三十倍に相当する額」(健康保険法第42条第1項第1号)とされていますので、通常、「基本給」や「固定性手当」、「支給が見込まれる手当」を基に標準報酬月額を決定することとなります。

■ 定時決定


「定時決定」とは、年1回の標準報酬月額を見直す手続きのことで、冒頭に書きましたとおり手続き名称を「算定基礎届」と言います。

対象等についてはこの後記述しますが、4月、5月、6月に支給された給与を基に標準報酬月額が決定され、当該決定された標準報酬月額は、原則当年の9月から来年の8月まで適用されます。

■ 随時改定


「随時改定」とは、固定性給与の変動等に伴って、等級が2等級以上変動した場合に標準報酬月額を見直す手続きのことです。手続きの名称としては「月額変更届」と言われ、略して「月変(げっぺん)」と呼ばれることが多いです。

「随時改定」を行うには次の三つの要件全てを満たす必要があります。

  1. 昇給または降給等により固定性給与に変動
  2. 変動月からの3か月間に支給された給与総支給額の平均額に該当する標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差
  3. 上記②の3か月とも支払基礎日数(給与計算の対象となる勤務等の日数)が17日以上


上記全てを満たした場合は、変動後の給与を最初に支給された月から起算して4か月目から新たな標準報酬月額が適用されます。例えば、1月に支給された給与から変動があったときの「随時改定」では、4月の標準報酬月額から変更となります。

なお、当月分の社会保険料を翌月支給の給与で控除している場合、新たな社会保険料を控除するタイミングは、「変動後の給与を最初に支給された月から起算して5か月目」となりますので、先程の例では5月に支給される給与から控除額を変更することとなります。

定時決定の対象や留意点


それでは定時決定の対象や留意点等についてご説明させていただきます。

■ 対象


前述のとおり、定時決定は4月、5月、6月に支給される給与を基に標準報酬月額を見直すものです。対象は、その年の7月1日時点で在籍している全被保険者(社会保険に加入している全従業員)です。なお、以下のいずれかに該当する場合は対象外となります。

  • 6月1日以降に資格取得した場合
  • 6月30日以前に退職した場合
  • 7月、8月又は9月に随時改定する場合(結果的に随時改定が優先される)


■ 標準報酬月額の決め方


4月、5月、6月に支給される給与総支給額を対象の月数で除して得た額を報酬月額として標準報酬月額を決めます。この際、固定性給与の変動は一切問いません。また、随時改定の説明において支払基礎日数について言及しましたが、定時決定でも支払基礎日数の要件があり、「支払基礎日数が17日以上ない月」は除外して報酬月額を算出することとなっています。

例えば、「月末締め・当月分翌月支給の給与」の場合は、3月、4月及び5月の勤務が定時決定の支払基礎日数となりますが、仮に3月全ての勤務を欠勤したときは(4月及び5月は全て勤務と仮定)、3月は支払基礎日数が17日に満たないため、4月及び5月の勤務として支給される給与、つまり、5月及び6月に支給される給与で報酬月額を算出し、標準報酬月額を決めることとなります。

■ 3月、4月、5月の勤務次第では標準報酬月額が大幅に変動することに


「月末締め・当月分翌月支給の給与」の場合、業務量の増加等により3月から5月にかけて「残業が多かった」、「歩合給の支給が多かった」等があったときは、定時決定により標準報酬月額が高くなる可能性があります。

特に、「『資格取得時決定』や『前年の定時決定』以降に『随時改定』が一度もなく、かつ、4月、5月、6月の一部又は全ての月の給与総支給額が他の月と比較して高くなる(低くなる)場合」は、標準報酬月額の大幅な変動に留意する必要があります。

定期昇給等により1等級程度の変動でしたら許容範囲と言えるかもしれませんが、2等級以上の変動はそれなりのインパクトがあります。

そして、定時決定で決定された標準報酬月額は9月から適用されますので、一時的に支給された残業手当等の非固定性手当の変動だけをもって等級が上がった場合は、事後、「基本給や固定性手当は変わっていないのに社会保険料の負担が増えた」のような印象を受ける従業員がいるかもしれません。



今回は社会保険の「定時決定」について書かせていただきました。

制度、仕組みはどうすることもできませんが、あらかじめそれらを把握しておくことによって、事前に社会保険料の増減を察知することができたり、前もって従業員へ周知することにより認識相違を解消等することが可能です。

7月の手続き着手時に「こんなはずではなかった」とならないよう、早めに準備してみてはいかがでしょうか。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。