CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-11-24
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
年末調整について


皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回は年末調整の仕組みや年末調整で利用する各種申告書についてお話をさせていただきます。

なお、本コラムは企業の給与計算担当者や、給与(役員報酬含む。以下同じ。)の支給を受けている方々がお読みになることを想定した簡易的な内容となっております。制度の詳細については国税庁のサイト等でご確認下さい。

年末調整とは


年末調整とは、「所得額を見直すことによる所得税の精算」になります。
所得税は毎月の給与で天引きされていますが、その給与額に対応する税額を暫定的に天引きしているだけであり、最終的に所得税は年間の所得ベースで計算する仕組みとなっています。

例えば、生命保険や地震保険の保険料控除は毎月の給与に反映させるわけではなく、年末調整の際にまとめて計算する形となっていますが、それらを所得に反映させることによって所得税額が確定するのです。

年末調整する、年末調整しない、年末調整できない


通常、毎年10月頃になると会社の給与計算担当者や顧問税理士から年末調整の案内があり、扶養控除等異動申告書や保険料控除申告書等を記入し、会社に提出していると思います。一方的に申告書を渡されて提出を促されるだけのケースもあれば、年末調整を行うか否か確認されるケースもあろうかと思います。

前者の場合は「年末調整は当然に行うもの」という認識でいられますが、後者の場合は「年末調整は必ずしも行う必要はない?」、「年末調整の有無により何か違いがある?」のような疑問が生じるのではないでしょうか。

以降、年末調整を「する」、「しない」、「できない」という観点から年末調整の仕組みをご説明します。

■年末調整する


「年末調整する」とは、前述のとおり所得額を見直すことによって所得税を精算することを指します。
意外にも「年末調整する=市区町村に給与額を報告する」のような認識をお持ちの方は少なくないと思われますが、市区町村への報告については年末調整をする、しないにかかわらず、要件を満たしていれば原則報告することとなっています(「給与支払報告」がこれに該当)。

また、「市区町村への報告」を変に解釈して「年末調整する=住民税の納付義務が生じる」のような認識を持つ方もいらっしゃいますが、こちらも年末調整の有無は関係ありません。むしろ、年末調整をしないことにより適切な所得額が計算されず、場合によっては住民税額が高くなるといった可能性も生じ得ます。

■年末調整しない


「年末調整しない」と意思表示する場合は二つの理由があると考えられます。

1.確定申告をするため年末調整はしない場合


一つは「確定申告をするため年末調整はしない」場合です。例えば、医療費控除や寄付金控除は制度上、確定申告で計算する必要がありますが、広く年末調整で行われている扶養控除や保険料控除も言わずもがな確定申告で計算することができますので、これら全ての控除を確定申告でまとめて行うことが可能です。

つまり、「結局は確定申告するので年末調整しなくてよい」みたいなスタンスです。ちなみに、扶養控除や保険料控除を年末調整で計算し、その後、医療費控除や寄付金控除を確定申告で計算するといった部分的な対応は可能です。所得、控除内容が同一である限り、年末調整と確定申告は全く同じ効果がありますので、計算方法、タイミングによる税額の相違は一切ありません。

2.年末調整はしない方がよいという考えの場合


もう一つは「■年末調整する」でも触れましたが、何かしらの誤認により「年末調整はしない方がよい」という考えを有している場合です。あくまで個人的な対応方法にはなりますが、確定申告の予定がない方から「年末調整はした方がよいか」と質問された場合は、「特段事情がない限り年末調整をしない理由はない」とお答えしています。

■年末調整できない


「年末調整できない」はそもそも年末調整ができないケースになります。以下が主なケースです。

  • 1年間の給与収入が2,000万円を超える
  • 2か所以上から給与を受けており他の勤務先に扶養控除等異動申告書を提出している
  • 医療費控除、寄付金控除等一部控除の計算(「年末調整ではできない」という意味)

2つ目の「2か所以上から…」のケースですが、扶養控除等異動申告書を提出している方の会社では年末調整をすることはできます。

ただし、この場合は、その会社での給与に係る所得税を精算するだけであり、改めて確定申告にて全社分の給与に係る所得税を精算することとなります。

また、従業員サイドの事情として前職の源泉徴収票(同年中の給与の支払いに係るもの)が用意できないときも年末調整をすることはできません。1年間のすべての給与を対象に所得税を精算する必要があるのにその一部が確認できないと適切に所得税の精算ができないためです。こちらがないと年末調整でも確定申告でも所得税の精算はできませんので注意が必要です。

各種申告書について


以下、年末調整で利用する各種申告書についてご説明します。

■扶養控除等異動申告書


給与計算や年末調整において扶養控除等異動申告書はとても重要な書類になります。この申告書を会社に提出しないと、提出した場合と比して天引きされる所得税が高くなる(乙欄という税区分が適用される)仕組みとなっています。

また、親族を扶養控除の対象にする場合は、扶養控除等異動申告書に記載する必要がありますので、その記載がなかったときは所定の扶養控除が受けられません。従いまして、特段理由もなくこの申告書を提出しなかったり、記載内容が不足している場合は、必要以上の所得税が徴収されることとなります。

■給与所得者の基礎控除申告書兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書


こちらは令和2年から新たに設けられた申告書になりまして、名称のとおり三つの目的があります。

1.基礎控除についての申告


一つ目は基礎控除についての申告になります。令和元年までは基礎控除は一律38万円が適用されていましたが、以下のとおり令和2年より合計所得金額に応じた基礎控除が設定されました。

  • 合計所得金額2,400万円以下:基礎控除48万円
  • 合計所得金額2,400万円超2,450万円以下:基礎控除32万円
  • 合計所得金額2,450万円超2,500万円以下:基礎控除16万円
  • 合計所得金額2,500万円超:基礎控除なし

こちらを提出しないと基礎控除は受けられませんのでご注意下さい。

2.配偶者(特別)控除についての申告


二つ目は配偶者(特別)控除についての申告になります。
配偶者(特別)控除には、夫婦双方に所得の要件がありまして、配偶者(特別)控除の適用を受ける側は所得1,000万円以下、配偶者(特別)控除の対象となる側は所得133万円以下である必要があります。

なお、控除額については、控除の対象となる配偶者が70歳未満の場合、前述の所得に応じて38万円から1万円の範囲内で所定の額が適用される形となります。

3.所得金額調整控除についての申告


三つ目は所得金額調整控除についての申告となります。
所得金額調整控除は、給与収入が850万円を超える人が対象となるものでどちらかと言えば限定的な控除になります。「23歳未満の扶養親族がいる場合」、「自身が特別障害者である場合」、「扶養親族や同一生計配偶者が特別障害者である場合」に、最大で15万円の控除を受けることができます。

■保険料控除申告書


生命保険料、地震保険料、社会保険料等の所得控除に関する申告書になります。こちらを記入することにより一定の保険料相当額を所得から控除することができます。なお、生命保険料控除については最大12万円の枠があることは皆様ご存知かと思いますが、税額が最大で12万円減額するわけではありません。扶養控除と同じようにあくまで所得から控除する仕組みで、その額が最大で12万円になるという意味になります。

今回は年末調整について書かせていただきました。
このコラムがアップ予定の11月下旬はまさに年末調整シーズンになりますが、本コラムにより少しでも年末調整に対する疑問点の解消、理解の促進につながればと考えております。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。