CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-02-15
株式会社THINX代表取締役   𠮷元 一夢
何も語らないデータは文脈として語れない

統計士(データアナリスト)が魅せるデータでデザインする未来の姿「何も語らないデータは文脈として語れない」




勢いよくスタートを切った『スマスロ』が登場してから数か月が経過した。『L HEY!エリートサラリーマン鏡PA4』(以下、『鏡』とする)の登場以降『スマスロ』の販売は止まり、かつての勢いは失速している。

こうした文脈に従うと、『スマスロ』の販売がなかったことに問題があるように思えるが、実際はそうではない。すでに、『Sパチスロ甲鉄城のカバネリZR』(以下、『カバネリ』とする)の稼働が『鏡』を超えたことが何よりの証拠だろう。

つまり、「スマスロだから」という文脈で物事は進行しておらず、「良い機種」であれば『スマスロ』や『メダルあり6.5号機』の枠組には左右されないことが示唆される。ゆえに、プレイヤーの目には『スマスロ』も“単なる新機種”のひとつとして映っているのかもしれない。

さて、前置きはこれぐらいにして本稿では、冒頭で挙げた『鏡』と『カバネリ』のデータには、なぜこれほどの違いが生じているのか論じることとする。

稼働(アウト)を構成させる要素


稼働の良し悪しを測るモノサシとして、「アウト」という台データを参考にするのが一般的だが、われわれの分析では別の視点も併用している。そのデータというのが、「遊びかたの質」と呼ぶデータとなる。詳しくは後述で解説していくので、まずは「アウト」を構成させる要素について構造式から整理しておくこととする。以下に、アウトの構造式を記載しておく。


図解1:【アウトの構造式】


上記、構造式にあるように「アウト」は、「遊技人数」と「1人あたりのアウト」から構成されている。したがって、結果の値となる「アウト」に基づいてファクトを積み上げても、実際のところどちらのファクターに強く影響を受け、稼働を構成させているのか中身まではわからない。

実はこの中身というのが重要で、良い結果を残す機種には共通して“ある特徴”が存在している。後述では、こうした特徴についてまとめることとする。

「面白い・楽しい」などの心理的要素を代入


良い結果を残す機種には、いくつかの共通点がある。今回は「遊技時間」という「遊びかたの質」を表すデータから解説することとする。以下に、『鏡』、『カバネリ』の「遊技時間」の推移を導入1週目から8週目までまとめた。


図1:【遊技時間】導入週系列 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用


そもそもなぜ、「遊技時間」なのかについてお伝えしておくと、「遊技時間」というデータはプレイヤーの心理的要素が表れる定量値として代入しやすいためである。つまり、プレイヤーが面白い・楽しいと感じれば自ずと「遊技時間」は延びやすく、反対に面白くなければ延びにくくなる性質が存在するためである。

前段の文脈に従い考察すると、『鏡』と『カバネリ』の間には明らかな違いが導入1週目から表れていた。『鏡』が導入された当初は、稼働(アウト)という結果の値はすこぶる良く、期待は高まっていただろう。しかし、導入当初から危惧されるデータが示唆されていた。そして、導入から3週目には76分まで下降し、プレイヤーの心理が一気にあらわになったと読みとれる。

前述した「アウトの構造式」にあてはめると、『鏡』はプレイヤーの数に支えられ稼働(アウト)を構成させていたことがわかる。

つまり、『鏡』の稼働は「遊技人数」が減少すると一気に急落に転じることが示唆されていたのである。

また、導入週ではなく同週系列で観察すると、より説得力が増していた。
以下に、同週系列の推移をまとめた。


図2:【遊技時間】同週系列 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用


『カバネリ』がリリースされて23週目にあたるのが、『鏡』の導入1週目(2022-12-05)となる。図示されているように『カバネリ』は23週経過してもなお、高い「遊技時間」を示している。したがって、面白い・楽しいと感じるプレイヤーが多いと考えられる。一方『鏡』は、導入1週目こそ23週経過した『カバネリ』よりも高くなったが、以降の推移はご覧のとおりである。

今回は『鏡』と『カバネリ』の「遊技時間」というデータを例に挙げたが、こうした分析は他の機種や『パチンコ』にでも応用が利く。また、心理的要素のように文脈としてはっきりと語りにくい性質があるものを、このように定量値として代入することで違った角度から示唆を得ることができる。

目的遊技性が高い機種の傾向


では最後に、せっかくなのでプレイヤーの心理的要素が良好だと感じられる機種を紹介することとする。以下に、4機種の「遊技時間」をまとめた。


図3:【遊技時間】ピックアップ機種 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用


いかにも「遊技時間」は長いだろうと想像がつく、『S新鬼武者2 ZC』や『SバイオハザードRE:2 XB』は想像どおり、すでに『鏡』を超えている。

上図の機種は、意外にも「遊技時間」が長い機種をあえてピックアップした。現在の稼働(アウト)はどれもすこぶる良いといった感じではないが、「遊技時間」のデータは裏腹な結果が示されている。その背景にある要因としてわれわれの分析では、「目的遊技性」という性質が関係していると結論づけている。

「目的遊技性」という言葉になじみがないと思うが、われわれの分析では“特定のプレイヤーが好んで遊技しやすい性質”のことをこのように呼んでいる。したがって、上図に示した機種は「目的遊技性が高い機種」となる。

こうした傾向が表れやすい機種の特徴として共通している要素は、「コア版権」に位置づけられる機種であることが過去の分析からわかっている。ここでは『Sこの素晴らしい世界に祝福を!ZR』や『Sとある科学の超電磁砲FB』、『S閃乱カグラBURSTUP/L4』がそれに該当する。

一方『LバキL3』は、「コア版権」に位置づけられる属性でないが、安定した遊技時間を保っている。一定のファンが存在しているのだろう。

これらを踏まえ考えるべきことは、こうした機種の存在意義や価値だと考えている。これら機種は、多くのプレイヤーを創出できる訳ではないが、コアなファンから支持を集めている。したがって、業界の判断基準に基づいて「ダメだった機種」、「もう使えない機種」として一括りにして終わらせてはならないだろう。

つまり、「マイノリティーな遊技者の心理的な訴え」も派手さがある機種同様に重要であり、こうしたことの方が実は、競合店との“差”を広げるポイントとなるのかもしれない。

たとえば、貴店の商圏やプレイヤー層によるが、上図で挙げたような機種の設置が“0台”という状況はあまり好ましくない。できれば、バラエティーにでも最低“1台”設置しておくべきだと考えられるだろう。

何を持って「ダメだった機種」、「もう使えない機種」なのか、「アウト」という結果の値だけでは何も語れない。
そんなことをお伝えしたかった次第である。

本稿が皆さまのマーケティング活動のお役になれば幸いである。



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このコラムを書いたのは
株式会社THINX代表取締役   𠮷元 一夢

𠮷元 一夢 よしもと・ひとむ
株式会社THINX 代表取締役

データアナリスト・統計士
1986年生まれ。文部科学省認定統計士課程修了。
現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。
そのかたわら、2021年、会員制情報配信サイト「THINX-LAB.」をリリースし、知見やノウハウの提供を開始。2022年、業界紙「TRYSEM CROSS」を出版し、現在も刊行中である。

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