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シー・エフ・ワイ コラム
2023-10-25
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
緩和された「130万円の壁」



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回は、緩和された「130万円の壁」についてのコラムになります。

「130万円の壁」と緩和の背景


「130万円の壁」(※)とは、社会保険の被扶養者の収入基準のことで、対象者の年間の収入が130万円未満(月額108,333円以下)だった場合は、被扶養者になること、被扶養者のままでいることができます。

※厚生年金保険に加入している従業員の数が101人以上の会社では、社会保険の加入基準(収入基準)が月額88,000円(年収ベースで約106万円)以上となっているため、そのような会社に勤務している場合は、「130万円の壁」以前に「106万円の壁」を考慮する必要があります。


例えば、夫が、自身が勤務する会社で社会保険に加入している場合、妻の年収が130万円未満だったときは、妻は夫の被扶養者になることが可能です。このとき、夫の被扶養者となった妻は、国民年金の第3号被保険者に該当することになります。

第3号被保険者は、国民年金保険料を納付することなく、国民年金を受給する権利を有することができます。国民年金保険料を納付する義務がある第1号被保険者(自営業者、無職等)や第2号被保険者(会社員等)と比べると、保険料負担という面では非常に有利な状態です。

被扶養者になれば、健康保険料も納付する必要はありませんので、世の中には、年間の収入を意図的に130万円未満に抑えている被扶養者は多いと言われています。

一方、社会保険の加入基準に満たさない範囲で収入が130万円以上となって、被扶養者から外れた場合は、自身で国民年金と国民健康保険に加入することになります。

収入が130万円から数万円程度上回っただけでは、保険料の負担によって手取り額が減少することとなるため、通常は、より勤務を増やして収入アップを図る動きが働きますが、勤務日数と勤務時間を増やすと、今度は社会保険の加入基準に該当することになります。

会社側としては、社会保険の加入者が増えると会社負担の社会保険料が増えるため、パートやアルバイトを社会保険に加入させない程度に勤務させる会社は少なくないという現実もあります。

上記のような労働者側と会社側の思惑により「130万円の壁」は強く意識されてきましたが、その副作用として、「130万円の壁」は、企業活動における人手不足の一つの要因になっていた背景があります。また、「130万円の壁」によって、本来は社会保険に加入するような人が被扶養者に留まってしまい、その結果、社会保障の財源を圧迫しているという声もありました。

今回、「130万円の壁」は緩和されましたが、硬直的な「130万円の壁」を壊すことにより、人手不足の解消や、将来的に社会保険への加入を促進させる目的や効果があると考えられます。


「130万円の壁」の緩和のポイント


以下が、今回の緩和のポイントになります。

■ 一時的な収入変動のときは130万円以上でもOK


一時的な収入変動とは、他の従業員の退職や休職によって業務量が増加した場合、突発的な受注増によって会社全体の業務量が増加した場合等によって、時間外勤務手当や臨時的に支払われる手当が増加したときが該当します。単に、基本給や時給が上がったケース、恒常的な手当が新たに支給されたケースでは、一時的な収入変動に該当しないため、その点は注意が必要です。

なお、一時的な収入変動については具体的な上限は設けられていません。従って、月給15万円の月が複数回あっても、年収が200万円であっても、一時的な収入変動に該当する限り、被扶養者のままでいることができます。

ただし、「被扶養者と被保険者が同一世帯に属している場合で、被扶養者の年間収入が被保険者の年間収入を上回るとき」、「被扶養者と被保険者が同一世帯に属していない場合で、被扶養者の年間収入が被保険者からの仕送り額を上回るとき」は、被保険者がその世帯の生計維持の中心的な役割を果たしているとは認められないことから、被扶養者の認定は取り消されることとなります。

■ 一時的な収入変動は連続2年まで認められる


一時的な収入変動による収入基準の超過は、連続2年まで認められます。この連続2年は、被扶養者の収入確認が起点になりますが、基本的には、年に一回実施している被扶養者の収入確認がそれに該当します。

例えば、協会けんぽに加入している会社の場合は、毎年10月から11月頃、協会けんぽから送付される「被扶養者状況リスト」に基づいて、被扶養者の収入確認を実施していますが、このタイミングで2年連続して一時的な収入変動が認められるといった具合です。

被保険者の加入と同時に被扶養者になる場合や、退職や収入減少により被扶養者になる場合等、新たに被扶養者になるケースも収入確認の起点に該当しますが、そのような時点では一時的な収入変動に当たるケースはほとんどないと考えられますので、実務上は概ね、被扶養者に認定された後の年一回の収入確認が起点になると言えます。

■ 対象者は配偶者だけではない


「130万円の壁」と聞くと、配偶者を連想される方が少なくありませんが、そもそも「130万円の壁」は、配偶者限定の収入基準ではありません。子や親を被扶養者として認定する場合も、この収入基準は当てはまります(被扶養者が60歳以上、障害者等に該当する場合の収入基準は「180万円」)。従って、今回の緩和は、被扶養者である子や親の認定時にも適用することができます。対象となり得る主なケースとしては、アルバイトをしている大学生や、パート勤務の親を被扶養者としている場合等が挙げられます。

■ 一時的な収入変動は事業主の証明が必要


一時的な収入変動は事業主の証明が必要となり、協会けんぽや健康保険組合の保険者は、その証明を基に、被扶養者の認定を行うこととなります。「事業主」という言葉はあまり馴染みがないと思われますので、「会社」という言葉に置き換えますが、ここでの会社の証明とは、被扶養者が勤務している会社の証明を指します。

例えば、夫(A社に勤務。A社は協会けんぽに加入)の被扶養者である妻(B社に勤務)については、A社で収入確認を行うこととなりますが、妻が一時的な収入変動に該当する場合は、B社による証明が必要となります。そして、この証明は、「B社から妻、妻から夫、夫からA社、A社から協会けんぽ」というような経路でB社から保険者である協会けんぽへ提出する形になります。


今回は、緩和された「130万円の壁」について書かせていただきました。
被保険者が多数在籍する会社では、被扶養者を有している確率も高いと言えますので、今後は、一時的な収入変動による収入確認を行うケースが多々あると思われます。一方、被扶養者に該当していると考えられるパートやアルバイトが多数在籍する会社では、それらパートやアルバイトからの要望により、一時的な収入変動を証明する場面が多くあるのではないでしょうか。
下記の厚生労働省のサイトもご参照いただきながら、取扱いについて理解を深めていただければと思います。

厚生労働省ホームページ 年収の壁・支援強化パッケージ
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html



このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。