CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-03-15
株式会社THINX代表取締役   𠮷元 一夢
遊技機性能向上の陰に潜む課題~ローカル環境で行うデータ分析の限界~

統計士(データアナリスト)が魅せるデータでデザインする未来の姿「何も語らないデータは文脈として語れない」



残念ながらイノベーション機として期待された『スマスロ』が登場してもなお、景況感の矢印は上向きそうにない。“飛び道具”として期待された『スマスロ』は、いまのところ遊技者のボトムアップ、あるいは減少のストッパーにはなりそうにないというのが雑感だろう。

本稿では、なぜ思い描いた未来と乖離が生じているのか論じることとする。

延べ158,000人の遊技者動向


まずは、遊技者数の推移から考察することとする。以下に、『4円パチンコ集団』(以下、『4P集団』とする)と『20円パチスロ集団』(以下、『20S集団』とする)の「延べ遊技者数」の推移を週次系列でまとめた。



図1:【延べ遊技者数】週次系列 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用

2月最終週時点の集団の総数は、延べ158,719人となった。『メダルあり6.5号機』に始まり、『スマスロ』の登場と続いたが総数の漸次的な下降に歯止めが利いていない。しかしながら『20S集団』の推移は、『旧規則機』の撤去を起点に一時大幅に減少したが以降の推移はなんとか踏みとどまっている。参考までに「延べ遊技者割合」と考察ポイントを以下にまとめておく。


図2:【延べ遊技者割合】週次系列 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用


考察ポイント

  1. (1)
    『旧規則機』の撤去により『4P集団』が『20S集団』を超える
  2. (2)
    『メダルあり6.5号機』の登場により『20S集団』が『4P集団』を超える
  3. (3)
    『スマスロ』の登場により『20S集団』は、一時「旧規則機」時代並みの規模となる
  4. (4)
    『ゴジエヴァ*』の影響もあり年末商戦に鋭角な変化が表れた
*『ゴジエヴァ』・・・Pゴジラ対エヴァンゲリオンG細胞覚醒L

考察ポイントから『20S集団』が良好であるように思えるものの、いずれもn数が減少していることには注意が必要である。

後述では、なぜ総数が増加を示すような傾向が表れないのか考えることとする。

遊技機性能と負け客はトレードオフの関係


遊技者の増加や減少に歯止めが利かない要因のひとつとして、「勝敗」が関係しているのではないかと仮説を立てた。そこで、「負け客」の推移と『メダルあり6.5号機』や『スマスロ』の導入時期と突き合わせて分析することとする。以下に、「負け客割合」の推移をまとめた。



図3:【負け客割合】週次系列 ©SUNTAC「TRYSEM」よりデータ引用


『旧規則機』が撤去される前と後で区分(2022.2月)すると、「負け客割合」の総数(棒グラフ)は『旧規則機』が撤去された後に勢いよく減少している。その背景にある要因としては、『20円集団』の「負け客」が減少したことだと考えられる。

こうした事象から示唆されるのは、暗黒時代の根源にある問題児と称された『6.0~6.4号機』は、魅力的な機種ではなかったものの“負けにくさ”があったと読みとれる。その証拠に、『旧規則機』並みにレギュレーション面が緩和された、『メダルあり6.5号機』や『スマスロ』が登場してから「負け客」が徐々に増加していることで説明がつく。

つまり、遊技機の魅力が高まったことの他方にある問題として、「遊技機性能」と「負け客」の間には、「一方が増加すれば別の一方も増加する」というトレードオフの関係にあることは押さえておくべきだろう。

遊技者の増加や減少に歯止めが利かない障壁のひとつとして、「負け客」の増加には課題設定が必要ではないだろうか。

後述では、こうした問題の解決案についてまとめることとする。

課題解決の近道はデータ分析のアップデート


当初『スマート遊技機』には新奇性があり、業界の課題に一石を投じる“飛び道具”として注目が集まった。しかし、いまのところ期待どおりの動きは示していない。売上や粗利面などのデータを切り取れば効果的であったと評価できるものの、ファンのボトムアップや減少に歯止めを利かせるまでのインパクトは残せていない。前述したとおり「負け客」は増加を続け、1人あたりに強いる負担ばかりが重くのしかかっている。

こうした問題にメスを入れる意味では、個別の「台管理」だけではなく、「顧客管理」が必要不可欠であると考えている。具体的には、CRMやアソシエーション分析を通じ、“One to One”で施策を打ち込むことが重要であると考えている。ただし、こうした分析を行おうとすれば膨大なデータの収集や加工に時間がかかる。そのため本来、分析の目的である「何かを決める」というミッションが雑になりやすく、属人化しやすいという問題が生じてしまう。

そこで、OLAP(オーラップ)と呼ばれるオンラインで分析処理を行う環境の構築を行うことで、データ収集や加工にかかる作業を“DX化”させることができる。そうすることで、探索的な分析から直感的な洞察を得ることが誰でも容易に行えるようになる。

また、“AI”や“ディープラーニング”という最先端のIT技術を活用することで、「翌月、離反する可能性があるプレイヤー」を自動検知するなどし、高度な分析からアクション出しまでを実現させていく。データを競争優位に運べる源泉として扱えるのかが、ビジネスをスケールさせていく上では重要だと考えている。高度なCRMやアソシエーション分析から「顧客管理」を行うことが、課題解決の近道となるだろう。


図解:OLAP SIS(オーラップシステム)の環境構築


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このコラムを書いたのは
株式会社THINX代表取締役   𠮷元 一夢

𠮷元 一夢 よしもと・ひとむ
株式会社THINX 代表取締役

データアナリスト・統計士
1986年生まれ。文部科学省認定統計士課程修了。
現在は、IT企業のシステム開発やソフトウェア開発にアドバイザリーとして従事しながら、パチンコホール・戦略系コンサルタントとして活動。
そのかたわら、2021年、会員制情報配信サイト「THINX-LAB.」をリリースし、知見やノウハウの提供を開始。2022年、業界紙「TRYSEM CROSS」を出版し、現在も刊行中である。

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