CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-11-17
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
今こそ、財務改善に取り組もう


コロナ禍の第5波が落ち着きを見せた9月30日に緊急事態宣言が明けました。平日の通勤や出張、休日の移動などを見ると回復基調を感じる場面が多くなりましたが、他方、休業支援金・給付金の支給がなくなった飲食業界では、今後の回復次第で更に閉店が増加する見方もあり、今後の景気回復とコロナ禍の抑制に期待したいところとなります。

償還年数と債務者区分


11月14日の日本経済新聞によると、中小企業を対象に実質有利子負債を EBITDA(税前減価償却前 利払前利益)で割った返済負担を調べたところ、今年6月末日時点で12.7倍となり、コロナ前の2019年6月末の8.2倍と比較すると収益力に対する有利子債務の負担が増加したとの記事がありましたが、資金調達や返済交渉などの銀行交渉に知見のある法人様においては、この記事が示す「EBITDA 12.7倍の債務」がどの様な意味を持つか、お分かりと思います。

「EBITDA 12.7倍の債務」とは、銀行が融資先の格付けで一般的に使う償還年数に読み替えることが出来ますので、「償還年数12.7年」を表していると言えます。更に、12.7年とは、銀行内の債務者区分における正常先の基準となる10年を超過していることから、正常先から要管理先(要注意先)などの格付けに落とす水準にあることを意味しています。

コロナ禍における制度融資等を多くの法人様が資金調達をした結果となりますが、コロナ禍の第5波が明け、休業に対する支援金や給付金が打ち切られた現下において、銀行の融資先(債務者)に対する見方(債務者区分)が「非常時から通常時に戻ること」を想定すべき時期に入ったと思われます。

また、銀行内における債務者区分により、正常先以外への貸出は原則見合わせることとなりますが、特にホール業界は規制の影響が大きい業界である認知が一般的となることから、正常先の債務者区分であることが資金調達における原則となります。

更に、銀行においては債務者区分により貸倒損金の引当率が異なることから、銀行においても融資先の債務者区分は収益を左右する内容となります。これらから、「EBITDA 12.7倍の債務」が如何に高水準であるかお分かりになると思います。

必要な事業資金の把握と返済計画


ホール業界においては、来年1月末を期限とした経過措置期間の終了に加え、来年2月以降の遊技機その他の設備投資が控えている状況となりますが、営業方針の違いはあれども、来年も引き続き一定の投資資金の維持が必要な年になることが思料されます。他方、来年1月末の期限が目前に控える状況からも、今こそ、来年の事業計画を作成、修正すべき時期と思います。

来年の事業計画において、必要な事業資金(投資資金)を把握の上で、仮に余剰と思われる資金がある様なら返済を盛り込むことが必要となりますし、余剰資金がない場合や、特に、償還年数が10年を超す場合には、非事業資産や不稼働資産を売却又は賃貸して返済に回すことが必要となります。

その理由は、既述の債務者区分における正常先の維持(又はアップ)が目的となります。概ねで構いませんので、来年必要な投資資金と償却前利益の予想を基に、来年は償還年数を考慮した財務改善に取り組むべき年と思います。

経営者の役割


公益法人や非営利法人を除く多くの法人は経営を維持し発展させることが求められますが、取締役などの経営者以外にも資金提供者(銀行や株主)や取引先、従業員が存在します(広義で言えば政府や行政も含まれる)。また、経営を発展させ成長し続けるためには投資が必要であり、資産や人材といった投資の形態を問わず、総じて事業投資と言えます。

事業投資においては、本業への投資もあれば、事業再構築補助金等を活用した新規事業等への投資がありますが、いずれにおいても、そのための資金調達と有休資産(不動産に限らず有価証券や余剰資金を含む)の活用が重要となります。

「自己資本比率は高ければ高い方が良い」といった話がありますが、別の見方からすれば「過剰な資産を保有しているだけで活用出来ていない」といった評価になるところもあり、結局のところ、事業の成長と、財務状況と資金繰りがバランスよく機能させる必要があります。

「営業は営業責任者が担当、財務は財務責任者が担当」といった縦割りの組織形態を見ることが多くありますが、大会社は別として、中小企業の場合は各部署の責任者が参加し議論する場を設ける必要があります。但し、あくまで「事業の成長」を目的としたものであり、結局のところ代表者が決定するしかありません。

代表者の方とお話した際に「財務は財務部長に任せている。営業は営業部長に任せている。」といったご意見を伺うことがありますが、失礼ながら申すと、代表者がこの手のコメントを発する会社様は総じて業績が悪い傾向が多い上に「代表者は一体何をしているのだろう?」と思うところがあります。

経営者の役割を突き詰めると、

  1. ①投資の決定をおこなう
  2. ②投資の資金調達をおこなう

の2点と思いますが、他方、経営者以外に変わりが効かないとも言えますので、成長に向けた迅速な意思決定と実行に期待したいと思います(了)。


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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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