CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2022-04-20
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホール(店舗)M&Aの評価事例


店舗M&Aにおける事業価値算定


今般のパチンコホールM&A(店舗M&A)において多く見られる事業価値の算定について、事例を交えながら触れてみたいと思います。
 
まず、M&Aにおける事業価値の算定について、一般的には次の算定ロジックが存在します。

1.インカムアプローチ

  • 算定ロジック:将来見込まれる収益力(営業キャッシュフロー)を基にした価値算定
  • 主な手法:DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)
  • 特徴:将来の収益力を反映した合理的な算定法として広く採用されるが、今後の事業計画の予測精度により左右する。


2.マーケットアプローチ

  • 算定ロジック:類似の取引事例等を基にした価値算定
  • 主な手法:マルチプル法(EV/EBITDA)
  • 特徴:EBITA(税前利払前減価償却前利益)や純資産に対する事業価値の取引事例を基に算定するが、取引事例の収集が上場企業等の公開データによるところとなるため、サンプルの少ない業種やエクイティサイズにより実態と乖離するおそれがある。


3.純資産法

  • 算定ロジック:純資産を基にした価値算定
  • 主な手法:時価純資産+EBITDA ※年倍(買)法
  • 特徴:店舗M&Aや中小(オーナー)企業M&Aにおいて広く採用される手法で売主の理解を得やすい特徴がある。他方、実績を基にした算定法で将来収益が反映されにくい特徴がある。

代表的な算定ロジックとして以上の3つが挙げられますが、いずれの手法もメリット、デメリットがあることから、複数の手法で算定された数値を基に分析する(中間値や重複幅など)のが一般的となります。
また、パチンコホールを含む店舗M&Aにおいては、『年倍(買)法(時価純資産+EBITDA倍率)』が一般的な手法となります。

パチンコホールM&Aにおける年倍(買)法の算定


それでは、パチンコホールにおける年倍(買)法の算定について、具体的に触れてみたいと思います。年倍(買)法は既述のとおり、時価純資産+EBITA倍率となりますが、先ずは時価純資産について整理します。

対象資産
資産項目採用する時価
土地固定資産税評価額、路線価
建物、建物付属設備、器具・備品のれんを含む買主評価
遊技機決済時の中古買取価格
保証金決済時の簿価
その他流動資産決済時の棚卸簿価

対象債務
債務項目採用する時価
貯玉決済時のホールコンデータ
退職金引当転籍の場合なし。雇用契約引継の場合は決済日計算
主な、対象資産と債務を挙げると以上となりますが、パチンコホールの店舗M&Aにおいて広く採用される時価評価の手法となります。

また、買主の評価が反映され、売主との交渉が生じる項目として、「建物(建物・外構)」、「建物付属設備(設備・造作)」、「器具・備品(器機・什器・備品)」となりますが、これら資産は法定償却期間を経過した資産が多く含まれることから、使用価値を含めた「のれん(営業権)」として包括的な評価をおこなうことが多いと思います。

他方、その他の項目において採用する時価については、路線価や中古買取価格など一般的な合理的基準が存在しますので、双方における評価が大きく乖離する場面は少ないと言えます。よって、建物以下の固定資産の使用価値を含む「のれん」がポイントとなります。

パチンコホールM&Aにおける「のれん(営業権)」の評価事例


パチンコホールM&Aにおける「のれん」の評価は、他業種と同じくEBITAが基準となります。

EBITDAとは、税前・利払前・減価償却前の利益のことを指しますが、具体的には、以下の算定式により、店舗ベースの営業キャッシュフローを算定します。

[営業利益+営業外収益(雑収入)]-[減価償却費(非支出勘定)+役員報酬+退職金+交際費+名目費用(グループ会社への賃料支払や経営指導料など)]

なお、実務上支障になりやすい点として、店舗別の損益データが整理されていないケースが挙げられます。売上粗利は店舗別に整理されるケースが多いですが、他方、販管費は会社全体で計上されて店舗別では未整理のケースが多く見られます。店舗売却を検討中の売主様においては、事前に、店舗別損益を整理することが必要と思料致します。

以上によりEBITAが算定されましたが、最後にEBITDAに対する倍率を掛けた数値が「のれん」の評価額となります。

既述のとおり、「のれん」は、法定償却期間を経た固定資産の使用価値を含むものとなりますので、固定資産が存在する限り無価値(0円)はないと考えられますが、他方、店舗リニューアル(再投資)を要するケースや、また、近い将来の支出が既に予想されている新紙幣対応や封入式遊技機などの支出要件が影響し、今般における既存設備への評価は低い傾向にある点に留意が必要です。よって、現状の実績を基準とした収益力に対する評価が中心となる傾向となります。

では、現状の実績(EBITA)に対する倍率評価はその程度かと申しますと、残念ながら低調と言えるでしょう。5号機の時代ではEBIDAの3~5倍の事例が多く見られましたが、今般では3倍程度が上限の印象を持ちます。また、無価値(0円)の評価も見られることから、売主様にとっては厳しい環境と言えます。但し、現状赤字の場合や、今後の再投資を控えていることを考慮すれば、「のれん」の評価が無価値であってもプラスと考えることが出来ます(勿論、土地や遊技機その他の資産に対する時価評価は存在します)。

今回は、パチンコホール(店舗)M&Aにおける評価事例について触れてみました。ご参考になれば幸いです(了)。

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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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