CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-08-17
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝
パチンコホールのM&A(4)


会社分割とは


パチンコホールのM&Aについて、前回は、基本合意とその他契約との関係、並びに会社分割と事業譲渡の違いについて触れました。

会社法における「組織再編」の位置づけとなる会社分割と、「取引行為」となる事業譲渡について、金銭を対価とした場合のその違いについて理解することは少々難しいところがありますが、簡単に言えば、「事業譲渡は売買、会社分割は事業再編」の理解を頂ければと思います。

売買となる事業譲渡では、1、消費税課税取引。2、特定承継(譲渡契約において譲渡対象を個別に定める。雇用や債務の承継も個別同意が必要)。

他方、事業再編となる会社分割では、1、消費税不課税。2、包括承継が前提(なお、非事業用資産、債務、及び雇用等を承継外とすることは可能)。

また、会社分割は、売主が特定の事業や店舗を事業再編の一環として切り出すこととなりますので、かかる手続きは売主が実施するのが前提となりますが、実際は買主が主導して進めるケースが多いのが実態となります。いずれにおいても、大半の買主が営業許可や遊技機の地位の承継を求めることから、事業譲渡ではなく会社分割が移転の主流となります。


会社分割における留意点


現在の資産債務やその他権利義務を包括承継する会社分割ですが、承継にあたり注意が必要な点をいくつか挙げたいと思います。

  1. 1.雇用契約の承継(不承継)
  2. 2.許認可の承継
  3. 3.債務の承継(不承継)
  4. 4.賃貸借契約の承継
  5. 5.継続的取引契約の承継(不承継)


雇用契約の承継又は不承継は、吸収分割契約書(新設分割の場合は新設分割契約書)で定めることができますが、いずれにおいても労働契約承継法(及び商法附則第5条)で対象事業に従事する従業員との事前協議と個別通知が義務付けられています。詳細は割愛しますが、売主から従業員に対する丁寧な説明が必要となりますので、注意が必要となります。

許認可の承継は、会社法規定の会社分割手続と併せて、分社及び分割による営業許可の承継に関する都道府県公安委員会の承認が必要となりますが、会社分割の効力発生前に承認通知書の受領が必要となります。効力発生後の承認通知の場合、承認通知のないその他権利を引き継いだこととなりますので、許認可を承継することができません。

また、個人名義の場合は一身専属の許認可となりますので、相続を含め本人以外の承継が原則不可であることを補足します。

債務の承継は、金融債務以外に仕入債務、貯玉、退職給付債務等が含まれます。こちらも承継する債務を契約書で定めることができますが、債務を承継する場合は債権者保護手続が必要となります。

手続としては官報公告と個別催告により1カ月間の異議申立期間を定めることとなりますが、異議申立があった場合は全額弁済が必要となります。

また、貯玉を引き継ぐ場合などは貯玉会員全員への個別催告が必要となりますが、個別催告を省略する手続として、官報公告に加え、定款の定めに従い日刊新聞紙による公告をすること(ダブル公告)で省略することができます。
よって、公告と併せて定款変更の登記が必要となります。

賃貸借契約の承継は、会社分割が包括承継といえども、家主の承諾が必要となります。また、賃貸借契約の条文にオーナーチェンジ不可の内容が記載されている場合は交渉が難航する恐れがあり、契約前に事前の確認が必要となります。

継続的取引契約の承継又は不承継は、具体的には(特殊)賞品仕入、警備会社、(再)リース、自販機、清掃などが挙げられます。ポイントは中途解約が可能かとなりますが、これら継続的取引契約を解約する場合の違約金の発生や解除不可が契約書に記載されている場合もあるので注意が必要です。

特に、金景品の仕入業者の変更については、買場と関係するケースも多く、M&A契約後のトラブルになりやすいことを含め事前確認が必要となります。

前回に引き続き、今回も専門的な内容が多くなりましたが、パチンコホールM&Aの実務上のポイントとなる会社分割について触れてみました。

次回は、パチンコホールM&Aの最終章として、M&A前後の取り組みについて触れてみたいと思います。どうぞ、引き続き、宜しくお願い致します。



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船井総研 金融・M&A支援部

<お問合せ先>thirano@funaisoken.co.jp
<HP>https://funai-ma.com/
このコラムを書いたのは
株式会社船井総合研究所
金融・M&A支援部
シニアコンサルタント   平野 孝

2004年 船井総合研究所中途入社。パチンコ、建設、不動産などの事業再生を中心に再生支援実績は50件を超す。M&Aでは法的手続など中規模以上のアドバイザリー業務から小規模の事業整理まで幅広く対応。経営戦略、ファイナンス、M&Aなどの成長支援に取り組む。一般社団法人日本ターンアラウンドマネジメント協会 準会員 事業再生士補。パチンコ歴30年。
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