CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2023-12-27
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
なぜ年末調整で還付ではなく「追加徴収」されたのか



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回は、年末調整で所得税が「追加徴収」される仕組みについてのコラムになります。

年末調整は所得税の精算


年末調整とは所得税の精算のことであり、「当年中の給与と賞与で天引きされた所得税」と「年間の所得額で改めて計算した当年中の所得税」を比較し、差異があった場合にその差額を還付又は追加徴収します。一般的に、12月又は1月に支給される給与で還付又は追加徴収の処理がなされます。

例えば、基礎控除以外の控除がない従業員の令和5年1月から12月までの給与が毎月額面300,000円(賞与支給なし)だった場合、その従業員の年末調整は次のようになります。



毎月の給与で天引きされた所得税


300,000円-社会保険料44,250円※=課税対象額255,750円
課税対象額255,750円の所得税:6,750円
6,750円×12か月=81,000円(①)

※シミュレーション上、毎月、雇用保険料1,800円、健康保険料15,000円、厚生年金保険料27,450円とする。

年末調整(徴収すべき所得税の計算)


給与収入3,600,000円-給与所得控除1,160,000円=給与所得控除後の金額2,440,000円
2,440,000円-社会保険料531,000円-基礎控除480,000円=課税給与所得金額1,429,000円
1,429,000円×所得税率5%=71,450円
71,450円×復興特別所得税1.021%≒72,900円(②)

差額


81,000円-72,900円=8,100円(還付)


毎月の給与では計81,000円の所得税が天引きされていたものの、年間の所得額で改めて所得税を計算した結果、当年中の徴収すべき所得税は72,900円だった。つまり、所得税を8,100円(81,000円-72,900円)多く天引きしていたことになるため、従業員へ8,100円を還付することになります。

上記シミュレーションのとおり、通常、毎月の給与では、所得税を多めに天引きするような仕組みになっています。加えて、年末調整では生命保険料控除等の各種控除の適用もあるため、年末調整をするとほとんどのケースで還付になります。

年末調整で追加徴収になる事象3選


前述のとおり、年末調整をすると大部分のケースで還付になりますが、追加徴収になることもあります。「年末調整をすれば所得税の還付がある」と楽しみにしている方が少なくない中、追加徴収になったらがっかりですよね。では、どのような場合に追加徴収になるのでしょうか。

追加徴収は複合的な要因によって生じるため、理由をひとつに限定することは適切ではありませんが、その可能性がある主な事象を3点紹介します。

当年中に扶養の人数が減少した


年末調整では、当年の所得税を精算するとともに、翌年分の配偶者控除や扶養控除の対象者を申告し、これに基づき、翌年1月以降の所得税に係る扶養人数が決まります。

給与計算上、所得税額は扶養人数に応じて異なっており、例えば、課税対象額255,750円の場合、「扶養人数0人のときは6,750円、1人のときは5,140円、2人のときは3,510円、3人のときは1,900円、…」のように、扶養人数が多いほど徴収額は少なくなる仕組みです。扶養人数によって所得税が軽減される理由は、年末調整で配偶者控除や扶養控除が適用されることを前提にしているからです。

分かりやすく言うと、「年末調整をすれば所得税は多くならないはずなので、毎月の給与では天引き額を少なくする」のような感覚です。

そのような中、当年中の配偶者控除や扶養控除の適用は最終的にその年の12月末時点の扶養人数で判定するルールであるため、万が一、12月末前に配偶者控除や扶養控除の対象者の減少があった場合は、「それまでの給与で天引きしていた所得税は少なかった」こととなります。つまり、年末調整で不足分の追加徴収が必要になるのです。以下がそのような事例の年末調整です。

▶給与毎月額面300,000円(課税対象額255,750円)
▶1月から9月まで配偶者控除の適用あり、10月以降配偶者控除及び配偶者特別控除の適用なし



毎月の給与で天引きされた所得税


1月~9月:
5,140円(課税対象額255,750円の扶養1人の所得税)×9か月=46,260円
10月~12月:
6,750円(課税対象額255,750円の扶養0人の所得税)×3か月=20,250円
合計:
66,510円


年末調整(徴収すべき所得税の計算)


配偶者控除及び配偶者特別控除の適用はないため上記②と同様72,900円

差額


66,510円-72,900円=-6,390円(追加徴収)


「年末調整での『当年扶養0人』判定によって、扶養1人を前提としていた1月~9月給与での所得税が少なかったこととなり、追加徴収によって調整される」のような形になります。

ちなみに、通常、扶養の異動があった場合は、直後の給与支給日の前日までに扶養控除等異動申告書にて会社に申告する必要があり、扶養人数に応じた所得税はそのタイミングで変わります。しかしながら、仮に、異動時ではなく年末調整で異動の申告を行った場合は、年末調整でまとめて所得税を精算することとなり、追加徴収はそれなりの額になりがちです。「年途中の給与から所得税が増えて、一部を年末調整で精算するか」、「年末調整でまとめて精算するか」だけの問題ですので、対応の違いで損得は生じませんが、年末調整でまとまって追加徴収されると心理的に損した気分になるかもしれません。

給与に比べて賞与が高額だった


給与で天引きされる所得税は給与そのものの額(課税対象額)で決まるため、給与支給額が高額であればあるほど所得税は多く徴収されますが、賞与はそうではありません。

賞与の場合は原則として、賞与の課税対象額に「その賞与支給月の前月に支給された給与の課税対象額に応じた税率」を乗じて算出します。賞与支給額そのものではなく、前月に支給された給与支給額で税率が決まるのです。そして、前月給与の課税対象額が高ければ高いほど税率は高くなる仕組みになっています。

言い換えると、給与水準が低いと当然適用される税率も低くなるため、給与支給額に比して賞与支給額が高額の場合は賞与で天引きされる所得税は少なくなり、結果として、年末調整で追加徴収される可能性が高くなります。以下がそのような事例の年末調整です。

▶給与毎月額面300,000円(課税対象額255,750円)
▶賞与額面2,800,000円(年1回12月支給)



毎月の給与及び賞与で天引きされた所得税


給与:
上記①と同様81,000円
賞与:
2,800,000円-社会保険料294,050円※=課税対象額2,505,950円
2,505,950円×6.126%(前月給与の課税対象額が255,750円の時の税率)≒153,514円
合計:
234,514円
※雇用保険料16,800円、健康保険料140,000円、厚生年金保険料137,250円とする。

年末調整(徴収すべき所得税の計算)


給与収入(賞与含む)6,400,000円-給与所得控除1,720,000円=給与所得控除後の金額4,680,000円
4,680,000円-社会保険料825,050円-基礎控除480,000円≒課税給与所得金額3,374,000円
3,374,000円×所得税率20%-控除427,500円=247,300円
247,300円×復興特別所得税1.021%≒252,400円

差額


234,514円-252,400円=-17,886円(追加徴収)


なお、上記シミュレーションのように給与水準と賞与支給額が極端に乖離していなくてもこの事象が発生することがあります。それは、欠勤等によって、たまたま賞与支給月の前月の給与支給額が少なかった場合です。制度上、前月給与の課税対象額が68,000円未満(扶養0人)だった場合は賞与の税率は0%になるため、状況次第では賞与で所得税が1円も天引きされないといったこともあり得るのです。もしかしたら、シミュレーションのようなケースよりもこちらの方が多く該当するかもしれません。

当年中に給与の支給額に大幅な変動があった


このケースでの追加徴収は、毎月の給与で所得税を天引きされることが少ない従業員の給与支給額が一時的に増加した場合や、アルバイトから正社員登用されて給与支給額が増加した場合等、アルバイトやパートの年末調整で生じやすい事象になります。

毎月の給与の所得税額は、「その給与支給が12か月あること」を前提としています。例えば、給与額面が85,000円(扶養0人)の時の所得税は0円ですが、これは、給与支給85,000円が12か月あっても年間合計102万円にしか至らず、所得税の納付義務が生じ得る103万円を超えることはないため、所得税は0円で構わないという建付けだからです(あくまで85,000円を例にした理論上の話です)。

従って、「毎月の給与支給額は概ね8万円程度だけど、所定外勤務増により2、3か月は15万円~20万円の給与だった」のようなケースにおいては、「8万円程度の各月」では一切所得税が徴収されておらず、潜在的に徴収不足が生じている状態にあるため、結果的に給与収入が103万円超になった場合は、年末調整により追加徴収されることがあり得ます。以下がそのような事例の年末調整です。

▶1月から10月の給与各月額面:85,000円
▶11月及び12月の給与各月額面:200,000円
▶雇用保険、健康保険、厚生年保険は未加入



毎月の給与で天引きされた所得税


1月~10月:
0円
11月~12月:
4,770円(課税対象額200,000円の所得税額)×2か月=9,540円
合計:
9,540円


年末調整(徴収すべき所得税の計算)


給与収入1,250,000円-給与所得控除550,000円=給与所得控除後の金額700,000円
700,000円-基礎控除480,000円=課税給与所得金額220,000円
220,000円×所得税率5%=11,000円
11,000円×復興特別所得税1.021%≒11,200円

差額


9,540円-11,200円=-1,660円(追加徴収)


給与での所得税額は給与支給額に比例して高くなるため、給与支給額の変動がより極端な増加だった場合は、その給与でより多くの所得税が徴収されることとなります。計算や還付額の表記は省略しますが、例えば、上記シミュレーションの11月、12月の給与200,000円が500,000円だった場合は、そのタイミングで、徴収すべき所得税以上の所得税を天引きすることになるため、年末調整では追加徴収ではなく還付になります。要は、給与支給額に大幅な変動があった場合、その変動幅や他の月での所得税徴収状況次第では、追加徴収になることもあれば還付になることもあるのです。

今回は、年末調整で所得税が追加徴収される仕組みについて書かせていただきました。
コラム内でもコメントしているとおり、追加徴収は様々な要素が絡んで起きるため、コラム内の3つの事象があったからと言って必ず追加徴収になる訳ではありません。どちらかと言えば、追加徴収になった理由は結果的に判明することが多いですので、追加徴収があった場合の気づきのご参考として本コラムをお読みいただけますと幸いです。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。