CFY COLUMN
シー・エフ・ワイ コラム
2021-09-22
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也
労働基準監督署による調査について



皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今回は労働基準監督署による調査についてお話をさせていただきます。

調査とは何か


労働基準監督署の調査がどのようなものかご存知でしょうか。調査対応のご経験がある事業主様も多くいらっしゃるかと思いますが、調査とは帳簿の精査、ヒアリングなどにより「法令違反がないか」を労働基準監督署が確認するもので、例えば次のような観点で調査は行われます。

  • 時間外労働休日労働に関する協定を締結し、届け出ているか(時間外労働、休日労働がある場合)
  • 時間外労働休日労働に関する協定の範囲内で運用しているか
  • 時間外労働手当、深夜労働手当は適切に支給されているか
  • 労働者名簿、賃金台帳等の各種法定帳簿を作成しているか(法定の記載事項を満たしているか)
  • 年次有給休暇は法定どおりに取得できているか(取得させているか)
  • 健康診断は毎年1回実施しているか
  • 健康診断結果(健康診断個人票)を保管しているか

昨今の傾向としては働き方改革関連法の施行を受けて、時間外労働休日労働に関する協定の運用や年次有給休暇の取扱いについて深く掘り下げてチェック、ヒアリングされる印象があります。

なぜ調査に来るのか


労働基準監督署が調査に来るきっかけとしては主に以下の2つが挙げられます。

  • 労働基準監督署の計画に基づく定期的な調査
  • 外部からの申告等を受けた調査


■労働基準監督署の計画に基づく定期的な調査


文字通り労働基準監督署の計画によるものです。各種情報、労働災害の報告状況等を踏まえて実施されると言われています。

ちなみに、あるクライアントの調査に立ち会った際に「なぜ調査に入ったのか」と労働基準監督官に聞いたところ、「専門業務型裁量労働制(※)に関する協定を届け出ている会社への指導を強化しておりその一環」という返答を受けたことがあります。

※あらかじめ定めた時間働いたものとみなすことができる制度。本制度は業務遂行の時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められている業務のみが導入できる。導入にあたっては労使間での協定締結、労働基準監督署への届出が必要。


■外部からの申告等を受けた調査


「残業しているのに残業代が適切に支給されていない」など、労働者(現職、退職問わず)による労働基準監督署への申告をきっかけに調査が入ることもあります。厚生労働省が公表した「令和3年度地方労働行政運営方針について」では、「『労働条件相談ほっとライン』に寄せられた情報や、インターネット情報監視により収集された情報に基づき、必要に応じて監督指導を実施する。」とされています。

なお、調査に立ち会った際には毎回、前述のようになぜ調査に入ったのか労働基準監督官に確認していますが、経験上「申告があったから」といった返答を受けたことはありません。仮に申告が契機だったとしてもそのような返答はなされないと思われます。従いまして、定期的な調査のようで実は労働者からの申告をきっかけに調査に入ったということも想定されます。

いつ来るのか


「労働条件の調査」などのような形で書面による予告がある場合と、事前の予告なく労働基準監督署の労働基準監督官が訪問してくる場合があります。

前者においては書面に「用意する帳簿や資料」、「労働基準監督署への訪問日時」が記載してありますので、調査当日までの間に今一度自社の労務管理状況を確認して調査に臨むことができます。

一方、後者においてはそれこそ突然やって来て帳簿等の提出や代表者への面会等を求めてきますので、いざ訪問があったときはかなり焦ってしまうのではないでしょうか。

しかしながら、現実的な話、日常の業務対応や代表者不在等により、即時に対応できる企業はなかなかありません。大抵は後日にリスケすることができますのでご安心下さい。その場合は、「労働基準監督官の名刺」や「用意する帳簿等の一覧表」を残してくれます。

なお、顧問として社会保険労務士がいる企業の場合は、調査日のスケジューリング、調査の立ち合い、調査時のヒアリング対応、是正報告書の作成等を社会保険労務士が担ってくれます(社会保険労務士との契約内容によります)。

何を提出するのか


主に以下のような帳簿、資料を用意するよう求められます。

  • 会社概要、組織図、年間休日数が確認できるカレンダー
  • 労働者数(全体、男女数、有期雇用、年少者、派遣、パート、障害者、外国人労働者等内訳)
  • 労働条件通知書、雇用契約書(ひな形)
  • 労働者名簿
  • 就業規則(各諸規程含む)
  • 時間外労働休日労働に関する協定届
  • タイムカード、出勤簿、時間外労働申請書等の時間管理に係る書類
  • 賃金台帳
  • 年次有給休暇管理簿
  • 健康診断結果の記録(健康診断個人票)
  • 安全衛生委員会に係る規程、議事録
  • 産業医の選任が確認できる書類
  • 衛生管理者の選任が確認できる書類
  • 安全管理者の選任が確認できる書類
  • 定期健康診断およびストレスチェックの結果が確認できる書類
  • 医師による面談指導の制度、実施が確認できる書類

※その他別途指示あり


ところで「雇用契約書」、「就業規則」、「タイムカード」、「賃金台帳」等を用意するのは何となく理解できるかと思いますが、なぜ「年間休日数が確認できるカレンダー」を提出するかお分かりになりますでしょうか。こちらは所定労働時間を確認するために利用されます。

労働基準監督官は所定労働時間から時間単価を算出することによって「時間単価が平均賃金を下回っていないか」、「割増賃金が適切に計算されているか」をチェックするのです。

調査で法令違反を指摘された罰則?逮捕?


労働基準法には罰則規定が設けられていますので違反行為があった場合は罰則が科せられることとなります。最悪の場合は逮捕されることもあり得ます。一方、調査において法令違反が発覚した場合は、労働基準監督署から是正勧告を受けることになりますが、この是正勧告は「行政指導」という建付けになっています。

そのため実務的には調査後即時に罰則が科せられることはなく(もちろん程度、状況によります)、まずは法令違反に対して是正勧告という形で指摘が入り(法令違反とは断定できないものの改善した方が望ましい事案に対しては指導が入り)、それらの是正、改善が求められることとなります。そして、後日、その是正状況、改善状況を是正報告という形で報告して調査は完了します。

なお、調査において賃金の未払いが発覚した場合は当該未払いの是正が求められますのでその点は十分にご留意が必要となります。

今回は労働基準監督署による調査について書かせていただきました。
ご不明な点等ございましたらお問い合わせ下さい。
このコラムを書いたのは
社会保険労務士 齊藤労務事務所   齊藤 拓也

千葉県市原市生まれの墨田区在住。
地方銀行(千葉県)、金融商品デリバティブ取引所、ファイナンシャルプランナーの団体、社会保険労務士法人でのキャリアを経て2020年4月、東京都中央区日本橋に「齊藤労務事務所」を開業。就業規則整備、助成金活用の提案をメイン業務として活動中。
現在は第一線から退いているもののパチンコ業界にはユーザとして長く関与。大学生活では文武両道に努めつつ「オークス2」、「セブンショック」、「CRモンスターハウス」、「CR必殺仕事人」に熱中。大学卒業後はスロットへ路線変更して「花伝説」、「猛獣王」、「アントニオ猪木という名のパチスロ機」、「スーパービンゴ」、「北斗の拳」などで万枚の大台を記録。好きな機種は「ハナハナ」。